しゅん

ライオンは今夜死ぬのしゅんのレビュー・感想・評価

ライオンは今夜死ぬ(2017年製作の映画)
4.5
椅子から立ち上がるのがやっとの老いたジャン=ピエール・レオーは目を見開いている。鏡に映る自らに向かって語りかけるとき。バスの中で子どもたちと声を張り上げて歌うとき。かつての恋人の幽霊と踊り回りながらカメラを見るとき、彼は怖いくらいにくらいに目を見開いている。そして、ラストシーンで同じセリフを二度繰り返すとき、一度目は声を発した後に目を閉じるが、二度目には目を開けたままだ。この映画は死をめぐる映画でありながら、終わりに対して目を閉じない。映画内映画の監督は死を「苦痛からの解放、安楽」だと語るが、レオーは反論する。曰く、「死とは、出会いなんだ」。映画の中にはいくつもの出会いが見つけられる。映画を撮ろうとする子どもたちとの出会い、恋人の幽霊との出会い、ライオンとの出会い。「人生で一番いい時期は70歳から80歳の間だよ」と語る言葉が全く虚ろに感じない。林檎を投げ、口をもごつかせる動きの溌剌さには、新鮮な世界に身を置くものの悦びがこみ上げる。見知っていると同時に初めて知るような、幻想的にリアルな光に包まれて、何も語らない海の揺らめきを見つめる目はまっすぐに世界を感じている。私たちもレオーと同じようにまっすぐに、なじみ深く真新しいこの映画を見続ければいい。暗く狭い路地の隙間から輝く海に、運ばれていくグラジオラスの赤い花に、四角の螺旋階段を昇るユキ(『ユキとニナ』のユキだ)に、緑のワンピースを青に変える夜明けの空気に、『レベッカ』のオープニングを思わせる廃墟の門に、果物屋で隠れきれない紫のマイクに、魅せられればいい。この映画から私たちに伝わることは、見ることの悦びそのものだ。大切な存在を失った老人と少年を癒すのは見ることであり、見えたものが幻想であるかどうかはさして問題ではない。喪失にも老いにも死にも、出会いはある。子どもが世界をはじめて見つめるときの驚きは、喪失の果てに蘇る。映画とは、なにかを失くした者たちだけが出会える新しい光だ。喪失をやり過ごすだけでなく、喪失と積極的に戯れることを教えてくれる、稀な美しさに貫かれたこの映画は、どんな青春よりも生き生きとしている。
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