まぬままおま

花筐/HANAGATAMIのまぬままおまのレビュー・感想・評価

花筐/HANAGATAMI(2017年製作の映画)
4.0
大林宣彦監督戦争三部作第三作。

佐賀県の唐津を舞台に、太平洋戦争勃発前夜を生きる若者の群像劇。
大林監督の魂が、記憶が映画に焼き付いている。

燃えるような友情、恋愛、青春。観客が生半可に触れたら火傷するような激情を、晩年に「青年のまま」描いたのは素晴らしいとしか言いようがない。

恋愛は二者関係から多角関係になる。友情は決裂する。そして彼らは人間関係に右往左往するわけにもいかない。戦争は間近に迫っている。その逼迫した生を生きなければならない。

燃えさかるこの映画をただみよ。素晴らしい映画ほど言葉はいらない。


別稿
本作は戦争勃発期の若者たちの青春劇を描くことで、かつての記憶や感情を〈現実化〉する。それによって観客は、他者への理解を可能にして「戦争はよくないこと」を再認識できる。しかしよくも悪くも記憶や感情を扱っているに過ぎないので、戦争を引き起こす社会や政治経済の構造理解には及ばないのでないのかというのが私見である。

俊彦が身を寄せる叔母の家は裕福な家庭で社会に隔絶された空間である。彼らの関心は友情、恋愛関係に拘泥するから、社会情勢には目が向けられない。その社会との隔絶が戦争の音が迫っていることの逼迫さを助長するがそれでいいのかとも思う。

戦争は個人の意志によって始めることも終えることもできないのはもちろんだ。しかし権力者が意志決定し、その決定の集約が戦争を始めたり終えたりすることもまた事実なのである。そうであるならば権力者や意志決定のプロセスを監視したり、その決定がされる社会や政治経済の構造への理解がなければ「戦争は止められない」。本作が反戦ではなく嫌戦映画と評されるのもそのためだと思う。そして私は反戦でなくてはいけないと思っている。

映画に全ての要素を描けないのはもちろんであるから、それは本作と「対話」した観客が考えなければならないだろう。

蛇足
門脇麦のまつげが長いことに驚いた(きれい)。満島真之介はかっこいい。矢作穂香、山崎紘菜、門脇麦、常磐貴子は綺麗。やはりキャストを魅力的に撮るのはさすが大林監督である。