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馬を放つのhasseのレビュー・感想・評価

馬を放つ(2017年製作の映画)
3.7
演出4
演技3
脚本3
撮影5
照明5
音楽3
音響3
インスピレーション4
好み3

○「馬は人間の翼である」(キルギスの諺より)

自然の恩恵や遊牧民の血の誇りを忘れ、富と権力を求めるようになってしまったキルギスの人々へ、馬をモチーフに警鐘を鳴らす。

キルギスは元々遊牧民の国だったが、イスラム圏内に取り込まれたり、ソ連に吸収されたりした歴史が、いま現在の生活にも根をはっている。言語はキルギス語(国家語)とロシア語(公用語)が混在し、宗教はイスラームが過半数を占めるがロシア正教会の信者もいる。
それらの状況は国民を分断するものではなく、国民のなかに混在しているものとして、この映画では描かれている。

山岳と岩山と草原の雄大なエスタブリシッシング・ショットにはただただ魅せられるばかり。
主人公とマクシム売りの女性が談笑しながらススキ?を分け行って歩くショットは、郷愁を掻き立てられる美しさだった。

馬というモチーフが画面でもよくいかされている。主人公が、マクシム売りの女性をめぐってサディルに威嚇されるシーンは、演者の表情が視認できないほどロングの固定ワンショットで撮影されており、下手すると動きのない退屈なシーンになりかねない。しかし、サディルが馬に乗って主人公と女性の間を引き裂くように暴れまわり、砂煙がもうもうと立ち込めていくという独特の動きが画面の中で展開される。この演出は素晴らしかった。

伝説や夢をピュアに信じる父親の魂は、最後、息子に託されたかのように示唆される。それは先祖から受け継がれてきたキルギス人、遊牧民としてのDNAだ。そのDNAの中身は当事者でなければ理解できないが、後世への継承というテーマは普遍的に、観る者の内省を促す。
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