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殺人者の記憶法のレクのレビュー・感想・評価

殺人者の記憶法(2017年製作の映画)
4.0
記憶という曖昧な記録と録音された確かな記録を頼りに真実と嘘を錯綜させながら描かれる。
アルツハイマーにより失われていく元殺人者の記憶が事件の真相を曇らせ解決の糸口を消し去っていく。


殺人と育児、詩と散文の対比。
作中で「殺人は詩、育児は散文」だとあまり深い意味もなく語られます。
しかし、この言葉が忘れられない。
なぜならこの作品を表す言葉として最も適した言葉だからです。

詩とは言語の表面的な意味(だけ)ではなく美学的・喚起的な性質を用いて表現される文学の一形式である。
散文とは小説や評論のように、5・7・5などの韻律や句法にとらわれずに書かれた文章のことである。

【殺人は詩】
過去の出来事を表し、習慣として付いてしまった殺人という行為は形を崩すことなく人生に刻まれているもの。
元殺人鬼というこの習慣が過去のトラウマとして作中にも使われる。
【育児は散文】
育児、つまりは親と子の愛を表し、愛の形は常に一定ではなく変化していくもの。
娘を想う気持ちが現実と向き合う事件解決の糸口を明るく照らす。


サスペンスに重きが置かれ、それに並行してアルツハイマーで日々失われていく記憶とそこに起こる事件とを錯綜させる上で、元殺人鬼の心理描写は必須。
アルツハイマーという病に冒され、やりたいこととやらなければならないことが思うようにいかない。
そんなもどかしさ、そしてその事すらも忘れてしまう恐怖を巧みに上手く描いています。

記憶と記録、正気と狂気、現実と虚構、真実と嘘。
アルツハイマーの元殺人鬼だけでなく、我々鑑賞者側も惑わされること間違いなし。
ハマる人にはハマる一作。
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