青乃雲

バッド・ジーニアス 危険な天才たちの青乃雲のレビュー・感想・評価

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銃もなく、血も流れない『ミッション:インポッシブル』といった趣きの作品であり、ハリウッド映画のような語りを用いたタイ映画という点に、東洋が西洋の手法に則って描いた、西洋へのカウンターのようにも感じられて面白かった。

劇中に描かれる、STIC(国際的な大学入試)でのカンニング行為は、そのチーム性やスパイ性やクライム性にこそ本質が宿っている。

いっぽう、僕の心をつかんで離さなかったのは、主人公リン(チュティモン・ジョンジャルーンスックジン)の存在感。モデル業からの演技初挑戦ということや、見事に演じきったということよりも、心惹かれたのはむしろ彼女から感じられる凡庸さだった。

技巧を突き詰めた先に、その技巧を上回っていく役者としての大きさがあるとするなら、リン役の彼女にあるのは、技巧以前のむしろ小ささ。僕が感じた彼女の魅力は、モデル体型の長身・小顔・脚長の美しさというよりも、そうした美しさなら、映像を通して見慣れている目に映る平凡な印象だった。

その平凡さが、こんなにも美しい。

映画が巧みな展開と映画的な技巧を凝らすほどに、彼女の平凡さが際立っていく面白さ。そのことの前に、実話に基づいていることも含めたストーリーテリングのいっさいが、無効になっていくように心打たれた。

僕たち1人1人がそれぞれにもつ、心のなかで広がり深まっていく情景は、誰に見られるわけでもなく、ひっそりと咲く高原の花のようなところがある。そして花は、誰かに見られる/見られないということに関わらず、存在そのものが美しさで成り立っている。

リン役の彼女を通して、僕たちは僕たちであることそれ自身によって美しさを身につけているという実感を、製作者の意図が優れているほどに、そしてインターナショナルな語り口で語られたアジア映画であるからこそ、逆説的に映像から受けとることになった。

★タイ
青乃雲

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