Iri17

バッド・ジーニアス 危険な天才たちのIri17のレビュー・感想・評価

4.5
主人公の友達が僕の女友達にそっくりすぎて怖かったというのはさておき、この作品はタイの現状とこれからの在り方を暗示したような作品だった。

タイを含む東南アジアは、近年発展が進み、急速に豊かになっている。その中で加速しているのは学歴社会化だ。アジア諸国ではいい大学に入れるか、外国に留学できるかが将来を決めるという状況なのだ。
もちろんそれによってカンニングなどの不正も増えている。この作品が描いているのはただのカンニングではなく、タイという国の近年の在り方を表しているのだ。
撮影が非常にスリリングで示唆に富んでいるエンターテイメント作品でありながら、社会的な映画でもある。

タイはおもてなしの国であり、他人のために何かをすることを何よりも大切にする国だ。日本がおもてなしの国だなんて笑わせるなと思わせるくらいに。しかし、そのちょっとした友達への思いやりが、ビジネスへと変わり、犯罪になり、友情を破壊してしまった。
結局彼らは何を得たのか?タイは貧しくても幸せな国ではなかったか?その精神的豊かさを捨てて、学歴や物質的豊かさに囚われているために、主人公は親を悲しませ、大切なものを見失った、もう1人の秀才は完全に正気を失った、友達は主人公というかけがえのない友達を失った。無意味なものを追い求め、大切なものを失ってしまったのだ。父親は昔のタイを象徴している。汚い手段で買ったシャツなどいらないとシャツを脱ぎ捨てた。これからのタイにそれができるか?

スタジオジブリプロデューサーの鈴木敏夫さんはタイ人女性との交流を描いたノンフィクション小説『南の国のカンヤダ』で「近年のタイは発展を追い求めて大切なものを失った昔の日本に似ている。日本の二の舞にならないで欲しい」と語っている。
僕も本当にそう思う。物質的豊かさは非自然的欲望であり、そこから得る幸福に意味はないと思う。貧しくても幸せの国タイであって欲しいと思う。道を誤った2人の秀才のようにならないで。
Iri17

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