MasaichiYaguchi

プラハのモーツァルト 誘惑のマスカレードのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.5
「神童」ヴァルフガング・アマデウス・モーツァルト本人を描いた映画というと、ピーター・シェーファーの戯曲をミロス・フォアマン監督が映画化した「アマデウス」が余りにも有名だが、本作はそれ以来となる本格的なモーツァルト映画。
原題“Interlude in Prague”を直訳すると、「プラハでの間奏曲」とか「プラハでの幕間劇」になると思う。
この原題が意味するように、モーツァルトの人生におけるプラハでの滞在の日々を描いている。
1786年にウィーンでオペラ「フィガロの結婚」を初演し、翌年プラハで大ヒットしたことからモーツァルトは招聘され、「フィガロの結婚」の上演と新作オペラの作曲を依頼される。
映画で描くこの件は史実通りなのだが、それにモーツァルトのプラハでの恋愛というフィクションを絡めて展開していく。
この恋愛劇の登場人物は、モーツァルト、オペラ歌手のスザンナ、地元の名士で悪評高いサロカ男爵の3人。
つまり三角関係の恋愛劇なのだが、モーツァルトは妻子持ちなので不倫劇でもある。
愛や嫉妬、更にモーツァルトを貶めようという陰謀まで渦巻きながら繰り広げられるのだが、思いの外ドロドロとした印象がないのは、映画で披露される美しいモーツァルトの楽曲の数々の御蔭だと思う。
壮大なオペラシーンをはじめとした演奏はプラハ市立フィルハーモニー管弦楽団が担当し、全編ロケを敢行した中世の街並みが残るプラハ市街の美しさと相俟って作品を華やかに彩る。
モーツァルトは三男を亡くしたばかりの傷心を抱えていたとはいえ、道ならぬ恋に走って行き着く先は、そこが何処であってもハッピーエンドにはならない。
その恋の顛末が、モーツァルトがプラハで着手した新作オペラ「ドン・ジョバンニ」の物語とオーバーラップする。
今年はモーツァルト生誕260年、彼が生み出した数々のオペラにおける有名な楽曲は知っているが、この作品に登場したオペラを今度は“通し”で味わってみたくなった。