ブラックユーモアホフマン

デンジャラス・プリズン ー牢獄の処刑人ーのブラックユーモアホフマンのレビュー・感想・評価

5.0
超ハードコア版『96時間』。

原題は「99号棟で大暴れ」みたいな。
ロバート・マッコール(『イコライザー』のデンゼル・ワシントン)も真っ青の殺人マシンが冷徹且つ正確に目標に向かっていく。

アリ・アスター、デヴィッド・ロバート・ミッチェル、ヨルゴス・ランティモス、デヴィッド・ロウリーといった、新世代の映画作家のリストの中に、S・クレイグ・ザラーの名前は必須だろう。挙げた4人の作品に共通するセンスもあり、しかし全く違ってもいる。

やはりバイオレンス描写などからはニコラス・ウィンディング・レフン監督の作品も思い出すが、それともまた違う。バイオレンス描写の容赦なさは近年稀に見るレベル。こちらがメインディッシュならイーライ・ロスがデザートに思える。

淡々としたテンポ感と時折挟まれる冷めたユーモアの感じはクリストファー・マッカリー監督、トム・クルーズ主演の『アウトロー』なんかも思い出す。とにかく徹底してドライ。渇いている。その徹底した“観察映画”ぶりはワイズマンすら彷彿とさせた。

そしてその世界観を体現するヴィンス・ヴォーンの主演としての素晴らしさ。この人を抜いてS・クレイグ・ザラーの作品は語れないのではないかと踏んでいる。
現在公開中の『ブルータル・ジャスティス』でも組んでいて、正直ヴィンス・ヴォーンなんてベン・スティラーのコメディとか日本じゃDVDスルーになるようなラブコメとかにばかり出てる人だという印象しかなかったから、なんで?と思ってたんだけど、見てみたらもう納得しかしない。この人なんだ。
デカい。怖い。それでいて優しさや知性も感じさせる。この主人公こそがこの映画そのものを表している。

アクションもカットを割らずに引きで始終を見せるのがすごい。役者が本気で格闘技を習わないと実現できない表現だ。

主人公は常に最善の選択をするし、闘ったら鬼強くて、溜飲が下がりまくる。
間違った選択をしてしまう、計画がずさん、闘ったら負けてしまう、とかで主人公の葛藤を作るのが基本的な映画のプロットだけど、そうじゃなくて主人公は賢いしクソ強い、けど周りの環境や状況が更に輪をかけて絶望的にヤバい、というシナリオ。新しい感覚。

そこそこ長尺だけど全く飽きない。広角めのレンズで全体を写すカットを比較的長く使うのが特徴的で、なんでもないシーン、物語が進んでいないシーンを長くやっときながら、物語が劇的に展開するシーンはむしろあっさりしててすぐに終わる。1時間ほど経ったところでようやく物語らしい物語の契機が訪れて、でもあと半分しかないよ!?と思ってたらそこから次の段階に進むまでが5分で片づけられたんで感動した。

テンポ感はむしろドラマシリーズっぽいと感じた。映画の尺でこのテンポは珍しい。特に緊急事態宣言中にイッキ見したマシュー・マコノヒーとウディ・ハレルソン主演の「TRUE DETECTIVE」(キャリー・ジョージ・フクナガ監督)に似た印象を受けた。そしてこのドラマのシーズン2にまたヴィンス・ヴォーンが出てるんだよな。もしかしたらザラー監督はこれを見てキャスティングした可能性もあるな。シーズン1しか観てないけどシーズン2も観たくなってきた。S・クレイグ・ザラー監督で配信限定ドラマシリーズとか作ってくれたらめちゃくちゃ観たい。Netflixとかお願いします。

劇中かかる音楽も監督が作ってるのめっちゃ面白いよなぁ。完璧主義者なのかな。

めちゃくちゃドライでエグいバイオレンス映画なのに最後ちょっとウルッとした。すごい。

【一番好きなシーン】
どこも好きだけど、寝てるとき「I’m sorry...」って寝言いうところはグッときた。