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判決、ふたつの希望のevergla00のネタバレレビュー・内容・結末

判決、ふたつの希望(2017年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

【終わりのない喧嘩に終止符を打てるかも知れない方法】

西側はイスラム教徒、東側はキリスト教徒が多く住むベイルートの住宅街にて、おじさん2人が喧嘩する。

因縁を付けてくる(ように見える)Tonyは、熱心な右翼政党支持者、マロン派キリスト教徒のレバノン人。車の修理工場を営む。

建設工事の現場監督Yasserは、ベイルートで暮らすパレスチナ難民。真面目で仕事熱心だけど少々堅物。

2人とも、筋を通す頑固オヤジ。仕事の分野は違えど、中◯製品には不信感(^_^;)。前者はお喋り、後者は無口でも、カッとなる点はよく似ています。

日本文化だと、とりあえずさっさと謝ってしまえば?と思いがちですが…。

母国を失い、差別と迫害を受けてでも、外国で外国人の厄介にならなければ生きていけない難民の人生。

幼い頃、外国人に家族を殺され故郷を追い出されて、今もトラウマに苦しむ人生。

この住民と建設関係者との争いが文字通り火種となって、国民と難民、宗教の対立を煽り、あれよあれよと国中に火花が飛び散ります。
そして段々蚊帳の外のようになってくる当事者達の、歩み寄りと仲直りの仕方がとってもとっても素敵なのです(^。^)☆☆

住民 vs 建設業者
夫婦喧嘩
親子喧嘩
人種の対立
宗教の対立

いつの時代でも常に現在進行形で、普遍的な「いざこざ」だからこそ、長期のご近所トラブルを抱える中東の国を舞台にして、この、まるで若者のような、メロスのような、仲直りに感動するのです。

そして2人の争いは、劇中の他の口論にも大きなヒントをくれます。

夫婦喧嘩。
たとえ愛娘の子育てのためでも、Tonyが郊外に引っ越したくない理由を、パレスチナ人を毛嫌いする理由を、妻は知らない。

親子喧嘩。
当時の内戦の状況を鮮明に覚えている父親。リアルタイムでは知らず理想論に突っ走る娘。

ベイルートの東西もそうですが、裁判官側 (観客側) から見て、右側にキリスト教徒や右翼支持者、左側に難民サイドと、偶然?上手い具合に分かれていましたね。

長く生きていれば、誰でも心に傷を持っている。
赤ちゃんですら、辛い時間を乗り越えている。
そうなった「ワケ」は見えにくいけれど、傷口をえぐることなく、互いに思いやって、前を向けたら…。
おじさん2人の微笑みが、誕生した新しい生命同様、未来を少し明るく照らしていました。

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劇中に出てくる実在の人物と事件について関連することだけざっくり要約。(分かりやすくするために、キリスト教徒、イスラム教徒、とあえて一括りにしています。)

1936年
ナチスの規律に感化されたPierre Gemayelを党首として、Kataeb Party (Phalanges Party) (マロン派キリスト教極右政党)が設立。

1976年
Karantina massacre
右翼キリスト教徒がイスラム教徒のスラムを襲撃。

報復として、同年
★Damour massacre
イスラム教徒、左翼、PLOとその他 (日本赤軍?!含む )が、マロン派キリスト教徒の街Damourを襲撃し、PLOは同地をパレスチナ難民の居住区とする。

延々と続く…。

1982年
Bachir Gemayel暗殺
Pierre Gemayelの息子Bachirがレバノン大統領に選ばれるも即暗殺される。
Bachir体制を支持していたのはイスラエル、暗殺陰謀の糸を引いていたのはシリア…らしいが、

Bachir暗殺の報復として、同年
★Sabra and Shatila massacre
極右キリスト教徒が、難民キャンプを襲撃し、パレスチナ人とシーア派イスラム教徒を殺戮。
当時イスラエルの国防相だったSharonが主導し協力した…とされる。
現場の指揮官はBachirのボディガードを担っていたHobeika。彼の家族はDamour massacreの犠牲者。(CIAの工作員を経てシリアに寝返るが後年暗殺される。)
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