るーと

判決、ふたつの希望のるーとのネタバレレビュー・内容・結末

判決、ふたつの希望(2017年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

自分の問題意識が散りばめられた映画。

・法と政治
裁判は法に則った問題解決の場。そこに政治が持ち込まれると、法と乖離した議論、罵り合いが起きることがある。
感情的になってもいいことはない。これは普遍的。
さらに、今回は当事者と代理人の間にも乖離がある。当事者の意向を汲み取らず、大義の議論に利用することは法律家のあるべき姿では決してない。

裁判は代理人にとっては1つの事件でも、当事者の人生にとっては命懸けで、人生を壊しかねない危うさ。家族をも崩しかねないということの自覚。
同時に、法律家のできることはどこにあるのかという永遠のテーマ。政治マターの側面が大きすぎるパレスチナ問題において、できることは?

レバノンにおけるパレスチナ人への対応。優遇されていることへの不満。正直、トニーの気持ちも分かる。結局、多様な民族の融合というマジックワードによって問題を棚上げ、先送りしてるだけなのでは?という自分の疑問を代弁しているようにも見えた。これはパレスチナ問題に特化した話ではなくて、むしろ外交全般に妥当する。国連しかり、領土問題しかり、文化多様性しかり。もちろんそうやってバランスを取るのも1つ。「誠実と安定、どちらを選ぶかと言われたら、安定だ」という大統領の言葉が1つの現実であることは確か。

・言葉と感情、人の可能性
上記の映画の内容から離れたところだと、言葉の重み、発し方。とっさならそれでいいのかという問題もある。人にはいろんな過去があって、誰しも傷ついている。それを否定してはならないし、自分だけが、と思ってもいけない。
車の修理シーンからの殴らせて謝るシーンや自分にも非があることを認識している旨述べるシーンには、人間の持つ可能性を感じた。

・腑に落ちなかったこと
無罪判決の影響が描かれていない。しっくり来ずに終わったのはそこ。国内で焚きつけられた暴力の応酬が、無罪判決によって終わるとも思えない。(裁判官はその影響も考慮した判決を出すべきであって、でもそれは刑事事件では和解ができないことを前提とすると難しいのかもしれない。)
ただ、最後の表情は、本件では当事者双方は納得したということなのだろう。
逆に言えば、個人と個人の対話・和解からしか、民族間の和解は生まれないことを示しているようにも思える。

ちなみに、刑事裁判なのに私人訴追で原告vs被告の構図になっている点、裁判所の職権が強い点、第一審で被告人が檻の中にいる点などは、日本との違いを感じた。
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