罠と熱狂
エンド・ゲームの興奮冷めやらぬ中、
間髪入れずに迎えたフェーズ3、有終の美。
ストーリーテリングという名のクモの網目に捕らわれた次なるマーベルの獲物、
青春映画という名の傑作。
いやはや、
このところのMCU 単独作の出来映えには目を見張るものがありますよね。
ブラックカルチャー全面押しのトライバルな次世代アクションを世に放ったかと思えば、
矢継ぎ早にグランジ・オルタナの真髄をサスペンステイストで描く女性ヒーロー物で世間を煽る。
今回は、
スパイダーマンことピーター・パーカー
の青春をぎゅっと詰めた小気味のよい120分。
夏休みに、恋にと、
あくまでティーンネイジャーに撤しようとする彼がヒーローであることを忘れてしまいたい120分、
そして、同時に否が応でも彼がヒーローに成りゆくために必要だった120分。
それは、半強制的なイニシエーション。
若さゆえの葛藤を待ってくれるほど、
ヒーローとは甘くはないのです。
ただただ、そうはいっても彼の恋路を応援したくなってしまうのは、
トム・ホランド演じるピーターの笑顔や涙に屈託のない純真さを認めるからなんでしょうね。
そして、師であるアイアンマンことトニー・スタークに向けられたその純真さが、ひたすら僕達の心を打つのです。
しかし、湿っぽさが入り込む余地は一切ありません。
終始一貫されるポップな調子が、
3代目スパイダーマンと格別にマッチしていたのは、
正にストーリーテリングの妙。
超絶アクションと青春映画という、
出会うことのなかった両者を引き合わせた、マーベルの慧眼。
視力の乏しい蜘蛛の単眼には、
想像力と創造性が秘められていたのだとついつい妄想を膨らませてしまいたくなるくらい、マーベルの眼は万能です。
そんな、先見性が産み出したエンターテイメト。
何よりも、
親友ネッドや巨漢ハッピーなど、
盛り上げ役なサブキャラの脇は固い。
ネッドとガールフレンドが隣同士でチャットするシーンのバカップルさが僕の一番のお気に入り。
それをハイテクな方法で見てしまうピーターの表情もまた格別です。
そして何よりも、
ミステリオが渋いのなんの。
演じたジェイク・ギレンホールの内に秘めた神秘性と巧妙にマッチしたミステリアスなキャラ。
彼が、ポップになりすぎないようアクセントとしてバランスを保ち続けています。
カレル橋でのピーターとのやり取りには、
本気で感じ入ってしまいました。
そんなこんな、二転三転、
怒濤の展開で観客を楽しませてくれる、本作。
アクションのクオリティーに関しては今さら言うまでもないでしょう。
あらゆるジャンルに触手を伸ばすマーベルの表現力という罠と、
そこへ自ら捕捉されに行ってしまう観客の熱狂という糧。
マーベルと僕達との間の、
エンターテイニングな弱肉強食。
そんな構図を証明するかのように、
館内には熱気と、笑いと、叙情が、
溢れ返っていました。
アベンジャーズという縦糸に、
単独作という横糸を張り巡らせた、
ユニバースという巣が更なる拡大を続けていく。
フェーズ4よ、
僕の熱狂をどうぞ、糧にして下さい。