No.2537
【登場人物たちの"真顔"に注目せよ】
鬼才ポン・ジュノの劇場デビュー作。
「話がどこへ転がっていくかわからない」感じが、すでに本作で垣間見えている。まだ本作ではその感じが、緩やかだが、
それが極端にS字カーブのように転がっていくと「パラサイト」になるわけだ。
犬の扱いの是非については、お国柄もあるので、それについては触れない。
触れたいのは「よーく考えてみると、この映画の主要人物たちも、基本みんな"無表情"である。言い換えると、いつも"真顔"と言ってもいい」ということである。
つまり、「彼らも、犬も、表情に変化がないという意味では、この映画の中では一緒なのである」。
この映画の中の犬たちは「吠える」犬も、「吠えない」犬も、結局どっちもひどい目に遭っちゃうけれど、
その犬たちに振り回される彼ら人間だって、日常に戻れば同じようにひどい目に遭わされている。
ボイラー・キムさんの話とか、いくつか「不慮の死」を遂げた人たちのエピソードが挟まれるけど、これが凄く効果的。そういう死にまつわる話を怪談のように喋ってる人間が、犬をなんでもないように無下に扱っている怖さ。
それらの人間の怖さを、めっちゃかわいいぺ・ドゥナちゃんをはじめ、ずっと「無表情で真顔」の人物たちが繰り広げていく。
中でも一番「クールでセンスのあるシーン」だなぁと思ったのが、ドゥナちゃんと、そのお友達のぽっちゃりさんが、サイドミラー抱えて電車に乗ってるシーン。
そのとき、ぽっちゃりさんが、眠っているドゥナちゃんの髪の毛をやさしくなでるでしょう。私ここで鳥肌立ったのね。
ほんとなんでもない一瞬なんだけど、この1カットで、日ごろの二人の関係を表し、かつ、ぽっちゃりさんの本当の人柄まで表しちゃうポン・ジュノのセンスは、マジでぶっ飛んでると思った。
ラストも不思議な余韻で、私はなぜかちょっと感動してしまった。