Jeffrey

ファウストのJeffreyのレビュー・感想・評価

ファウスト(1994年製作の映画)
4.0
「ファウスト」

冒頭、複数の静止画がカットバックされ、地下鉄から上る人々の日常、チラシ配りの男達、1人の会社帰りの中年、超自然現象、卵、黒鶏、赤子、粘土、人形劇、操り師、舞台背景変化。今、1人の男が幻想と現実の境で彷徨う…本作はヤン・シュヴァンクマイエルが1994年に監督したチェコ、仏、英合作映画で、この度BDが発売され再鑑賞したが傑作である。本作はファウスト伝説を幻想的な解釈でアニメーションと実写映像をフュージョンし、映像化した野心作で、監督・脚本は「アリス」に次ぐ長編第2作に当たる。全ての声をアンドリュー・サックスが担当している。

やはり映画の舞台が一瞬にして変わっていく演出は面白い。それに人形を操っている操り師の手首が映ると、どうしてもチェコと言う悲惨な時代を迎えた国の操り人形=人間も糸で操られていると言うメッセージ性が見え隠れしてしまう。実際に監督自体色々と人形劇で映画を撮ると国から上映禁止にされなかったりと、便利だったのかも知れない。

それにしてもやはり幻想的でスペクタクルな演出が施されている分、非常に魅了されてしまうし、主人公が仕事帰りの労働者でありプロレタリアと言う設定も非常に面白い。

さて、物語はプラハでとあるチラシ配りをしている男性2人から手にしたチラシの地図を頼りにとある芝居小屋に行き、ファウストの衣装を身につけた途端に罠にはまってしまう男の奇想天外なファンタジー映画…と簡単に説明するとこんな感じ、独創的な世界観が確立された作品である。





本作は冒頭から魅力的である。数枚の静止画がカット割りされる。そして都会の地下鉄のエレベーターや階段から上がってくる人々を捉える固定カメラ。その間にスチール写真がカットバックされる。そこにはとある男性2人が地図のようなペーパーを配っている。1人のサラリーマン風の男がそのペーパーをもらい覗き見るがくしゃくしゃに丸めてしまいその場で捨てる。

配っている男性たちは引き続き、通りがかりの通行人にそのペーパーを渡す。続いてペーパーを受け取った男がとある場所へ入っていく。彼はポストを鍵で開け郵便物を手に取る(ここは彼の自宅と言うことが判明する)。階段から降りてきたのは人形を引きずったとある歳のいった女性、彼女を見つめる男性。


自分の部屋に来た瞬間、黒い鶏が扉の隙間から逃げていく。彼はそれに驚き鶏を追い払う。そして自宅の中へと入る。続いてカットは彼の室内の描写に変わる。自分の部屋から外を見て、先程の鶏を捕まえようとする人々を観察する(この時、鶏がした糞がカーペットにたくさん付いており、それを踏んでしまった靴を脱ぎ、ちりとりと放棄を手に持ち掃除をする)。

続いてその男が食事をするシーンへと変わる。彼はパンの中にある鶏の卵のようなものを発見し、それを手に持ち触る。そして割って中身を確認する。そうすると何も入っておらず、突然超自然的なエネルギーが爆発してポルターガイスト的に部屋が揺れ動き、荒らされて雷が鳴り、真昼の天気がいきなり常闇へと変わる。

そして先ほどペーパーを配っていた男2人(目ん玉が真っ白になっている)が先程の黒い鶏を抱き抱え彼の住むアパートを覗く。その男も彼ら2人を窓から覗き見る。そしてカットは翌日になったのか、また明るい風景に変わる。男は街を散策する。彼は地図のようなものでとある場所へ向かっている。

そして目的地に着き、その男は建物の地下のようなところに入り、下へと進む(その時、不意にそこにある林檎が一瞬にして腐ってウジ虫がわくショットが挟み込まれる)。男はその地下にある古めかしい衣装や雑貨が置いてある部屋へ辿り着き、そこのソファーに座りとあるボロボロの古い書籍を手にし開いて読む。

彼はそこに置いてある付け髭や化粧道具や帽子を身に付けて鏡に向かってベロを出す。そしてマントをつけて役者になりきり、冷蔵庫の中にあるビン(お酒)をグラスに注ぎ飲む。そして鏡に向かって本を朗読する(この時、初めて言葉が発せられる)。そうするとブザーが鳴り響て赤いランプが点滅する。

男は扉から外へ出る。廊下を歩き、トイレに操り人形のような木材人形が座っている。隣の扉を開けるとバレー団のような女性3人が身支度をして叫びながらバレーシューズを男に向かって投げる。男は舞台裏に向かって歩く。そこには警備員が椅子に座り寝ている。男は垂れ幕の隙間から会場に来ている人々を除く。そして帽子、付け髭、マントを舞台の上で取り、それを見つめる数人の役者らしき人たち、男はポッケからナイフを取り舞台の背景画を切り裂き中に入っていく(大きなトンネルのような空洞がある)。

カメラは暗い洞窟のような(神殿)を捉え、男は懐中電灯で照らしながら進む。とある部屋に到着し、そこには古代からある儀式のような古めかしい道具や得体の知れないものが数多く散乱してある。それを一つ一つ丁寧に捉えるカメラ、蝋燭に火が灯り、薬品を加熱する炎が映される。

そしてそこのガラス張りの中に入っている粘土がアニメーション化され、赤子が作り上げられる。そしてそのガラスケースを割って男がその粘土の赤子を手に持ち、そこに置いてある書籍の開いたページの上に置く。彼は本を読み、何かメモをする。男はそのメモを小さく折りたたみ粘土の赤ちゃんの口の中に詰め込む。そうするとその赤子は動き始め、顔がどんどん変形していく。

さて、今ファウスト伝説の幕開けだ。

ここから先はネタバレになる恐れがあるのでこれ以上は言及にしない。


いや、久々に鑑賞したけど画質の美しさがBDは半端がないね。もとより映像が美しい作品だからなおさらなんだけど、やはりこの静寂に満ちた(セリフがほとんどない)映画は個人的には大満足できる。いかに説明無しに観客に理解させるかという作風がたまらなく好きだ。

それに人形劇とそれを操る人間の手の動き、それのカットバックが非常に圧倒的でスタイリッシュだ。それとなかなか面白い演出が結構目立って、例えば弓矢の矢が一斉に飛んで主人公の所に飛び交うシーンで、いきなり岩場の大自然の中に変わったと思いきや今度は雪山の中にタイムスリップして上から滝の水が流れたり、大炎上する台車が彼に目掛けて突進してきたりと…面白い画作りだ。

それに人形の悪魔が現れてからのカット割の凄さや、あの耳障りな喋り方、口元の連続動作のショットなど案外迫力がある。それにその悪魔がスーツ姿になり、ハットをかぶって人間として街を歩きまわったりするシーンは非常にユーモアがあって笑える。それに人間の生足を新聞紙に包んでいる老人が犬に追いかけ回されるシーンや木材の机をこじ開けたらそこから赤ワインが噴水の如く放出してそれを4人の男性が飲む場面も滑稽で笑える。

人形劇が森の中で行われたり、水面(古池)で行われたり壮大なシチュエーションになっていく展開も非常に面白みがある。それとあんまり言うとネタバレになってしまうから言いたくは無いのだが、クライマックスに向けて人間と人形がセックスするシーンとかとんでもなくシュール。しかもその〇〇のセックスシーンでまさかのオチが笑える…。


それとクライマックスで冒頭に出てきた人間の片足を持った老人の暗示も解決してスッキリする。だが、その場面だけがスッキリするわけで、そこからの数分間のシーンはそんなこともなく帰結していく。それにしても最後のあの綺麗な足(足の裏)をしている男性はきっと足裏が綺麗なモデルっていうかエキストラっていうか…人を見つけてきたんだろうね。まぁ、どうでも良い話だけど。


にしても、アニメーション技法も宛らに人形操り師の手を天使と悪魔に分け、主人公を二項対立にしているのもファウストならではだなと、傀儡政権とかよく聞くが、この映画は正に傀儡師による傀儡映画なのである。ラストにでかでかと出現する赤いシュコダ車の車に轢かれるシーンもかなりの〇〇の象徴をしていてある意味ループされる恐ろしさを演出している。




最後に余談だが、チェコ人によると物心がつく頃には人形劇の虜になっていて、祖父母からもしくは親から子供向けの登場人物のマリオネットの家庭用人形劇セットと言うのをクリスマスが誕生日にプレゼントされるらしい。
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