chiakihayashi

ニューヨーク 最高の訳あり物件のchiakihayashiのレビュー・感想・評価

4.1
 はい、あの『ハンナ・アーレント』(12年)を撮った後に、マルガレーテ・フォン・トロッタ監督が楽しんで撮ったというコメディ。私は東京国際映画祭で観た。

 一世を風靡したモデルのジェイドも40歳、デザイナーへの転身を図っているのだが、夫のニックがなんと21歳のグラマラスなモデルに恋をして出て行ってしまった。悔しさに泣き暮らすジェイドの超高級アパートメントに現れたのがニックの前妻マリア。子どもたちも成人し、若い頃に志した文学を教えて身を立てようとNYにやって来て、アパートの所有権の半分は自分のものだと主張して居座ることに。マリアも40歳のときに、ジェイドに恋をしたニックに離婚されたのだ。

 ニックへの未練たらたらながらもファッションビジネスを立ち上げる資金のためにアパートを売りたいジェイドと、ニックに対してはもはやサバサバしているものの主婦だった時期のブランクに苦戦しているマリア。ジェイドはハイソなセレブ指向だが、マリアは磊落なナチュラル派。同じ男と結婚していて、その男が他に女ができて離婚したということ以外は、ライフスタイルも性格も正反対のふたりが仕方なく同居し、火花を散らす日々が始まる・・・・・・。

 いや、なんといってもアッと驚くオチが痛快で喝采!
 実はニックは、性的にもあまりに奔放な若い恋人についてはいけないとジェイドのもとに戻ってくるんですが、ね。そこでジェイドがどう出たか、がへぇー!!! それもアリかぁ!というもの。

 かつて20年間に渡ってマルガレーテ・フォン・トロッタ監督の公私のパートナーでもあったフォルカー・シュレンドルフ監督が主人公は多分に自分を反映していると語っている『男と女、モントーク岬で』(17年)と比べてみると、興味深い。いい年をして文句のつけようがない若いパートナーもいる男性作家がニューヨークで昔の恋人に再会し、愚かにも(と、敢えて言うけれど)ヨリを戻そうとするという、けっこう深刻で笑えないストーリーだった。まぁ、浮気性と呼ぶには、男性本人にしてみれば正直で真剣な心移りなのだろうけれど。
 それに対して、なんだか、マルガレーテ・フォン・トロッタ監督クラスともなれば、女性の方はもう達観している境地というか−−−−いえ、未だ未だ未熟者の私が言うのもナンですが、ね。
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