Aika

ベスト・ワースト・ストーリーのAikaのレビュー・感想・評価

4.3
1981年ブロードウェイで上演されたミュージカル「Merrily We Roll Along」
作詞作曲スティーヴン・ソンドハイム、演出ハロルド・プリンスという黄金タッグで誰もが成功を確信していた舞台が、たった44プレビュー16公演で閉幕。
なぜこの舞台は早々に打ち切りになってしまったのか。
オリジナルキャストのインタビューや当時の映像で振り返るドキュメンタリー。

BWでミュージカルを上演するには、一週間で平均約6700万円の運営コストがかかると言われている。(2019年現在)
なのでトニー賞の結果や興行収入次第であっという間に打ち切り、100億以上の損失を出す作品も珍しくない世界。

でもソンドハイムだよ?泣く子も黙るあのソンドハイムだよ?
しかしその名を持ってしても、16歳〜24歳の若者が40代の役を演じるのは不自然だという酷評、舞台の途中で退席する観客を止めることはできなかったらしい。
(ショービジネス界で成功した友人同士が、過去20年を振り返るというストーリー。同じ役者が20年間を通しで演じている。)

プレビュー時に主演の交代という異常事態があったり、酷評で自尊心を失ったり。
それでも私たちはMerrilyの歴史の生き証人だからと語るオリジナルキャスト達。

今も様々な形で舞台に関わっている人もいれば、全く違う職業につき親になった人もいる。
Merrilyでの経験は生涯で一番の出来事だったと言いながらも、苦い表情を浮かべる。
彼らに当たったスポットライトはとても明るく煌びやかなものだったからこそ、影はより暗く長い。
Merrilyは関係者全員にとってまさに原題の通り「Best Worst Thing That Ever Could Have Happened」なのだ。

打ち切り後キャストは離れ離れとなり、ソンドハイムとハロルドが一緒に仕事をすることはなくなる。しかし作品は一人歩きを始め長い月日を経てまさかの展開を迎える。

損失を出しても映画化したり、演出を変えツアーに出たり、今ならYouTubeから口コミで広がることもある。
良い作品は日の目を見る日が、化ける日が、いつか必ず来るのだ。

キャストに当時の自身のインタビュー映像を観てもらい尋ねる。
「過去の自分をどう思う?」
「過去の自分は今の自分が好きだと思う?」
このくだりは泣けたなぁ。自分が思い描いた通りの人生を歩める人なんているのだろうか。

オリジナルキャストのアルバムを早速聞いてみた。馴染みのあるソンドハイムの旋律に、若く溌剌とした声、シンプルな伴奏。
このアルバム収録は打ち切りが決まった後に録ったものだそう。これが最後かもしれない、それでも全力でショーを愛し歌った。その思いがいつか奇跡を起こすことも知らずに。

舞台に負けず劣らずドラマチックな道筋を辿ったMerrily。
ミュージカルの底力を見た。
Aika

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