荒野の狼

シリアにての荒野の狼のレビュー・感想・評価

シリアにて(2017年製作の映画)
5.0
見終えて、これが90分に満たない作品だった事に驚いた。「映画の時間」というものは不思議なものである。90分足らずなのに、あっという間に終わらない、何故ならこの一日、舞台となるマンションの中に、同居の住人に混じって自分(私)も釘づけにされるからだ、目が釘付けになるのではない、つまりそのままそこに放り込まれる。
やり過ごすことの出来ないこの同じ時間を、常にヒト目線で移動するカメラワークで直(じか)に体験させられるのみならず、観ているだけのつもりだったこっち(私)を、否応なく映画の中へ引きずり込むような俳優達の演技が、素晴らしい。
婆さんがテーブルの上に腹ばいになるシーンは秀逸である。この住まいの皆を支える老母にとってあのテーブルは、彼女の拠り所(信仰)である揺るぎない4本足の神だった。始めと終わりを、同じ場所の内と外の爺さんのシーンで見せる演出もいい。歳をとっているからといって、単なる90分で終わらせてくれないのである。生きているとは、そういう事かもしれない。
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