荒野の狼

たかが世界の終わりの荒野の狼のレビュー・感想・評価

たかが世界の終わり(2016年製作の映画)
5.0
文藝春秋の創刊者でもある菊池寛の戯曲に『父帰る』がある事はご存知であろう。グザヴィエ•ドランの場合には、帰ってくるのは父ではなく次男であった。帰ってはきたが、結局また出て行ってしまう事において、両者の創作(戯曲と映画)はそっくりである。ドランが『父帰る』を知っていたかどうかは不明だが、そっくりといえば新約聖書にあるエピソード『放蕩息子の帰還(ルカ)』は、当然のことながら念頭にあったに違いない。映画では家を捨て勝手に出て行き好きにやった挙句、訳あって帰ってきた弟を兄は許すことができない。当然母親も腹を立てて追い返すと思いきや、そうはならなかった。兄の怒りは爆発する。聖書の中では父親は怒る長男にこう言うのである「お前は私達とずっとここにいた。出て行った弟がここに帰って来たんだ、それを何故喜べないのか?」と。こちら(聖書)の方は父親が主役だが、ドランはマザコンなのでこの父親の「心情(こころ)」をそのまま母親に、役柄として担わせたのである。ここの所(構造)がわかれば、ドラン作品の中では最もわかりやすい映画と言えるだろう。それにしても俳優さん達皆さん、「たかが映画」と言わせぬくらい上手いね。
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