LC

ファイティング・ファミリーのLCのレビュー・感想・評価

4.3
面白かった。NGシーン最高だな。

プロレス好き(素人)としてこう楽しんだよ、という記録になるので、恐ろしく長くなる予定。最初に言っておく。本当に申し訳ないと思っている。

本作は実際にWWEが版権を持つ映像が流れる。つまり、俳優ではなく、レスラーとしてのロック様だ!ジョン・シナだ!すごいなあ!とはしゃいでいたら、最後の大舞台、マジでWWEの興行の所謂第0試合として行う形式で撮影されてたん、ちょっと顎外れる。試合前のマイクはロック様自ら。だいぶ顎外れる。ロック様のマイクが!しかも映画のための試合の前説的なマイクが!聞ける興行が!他にあるのだろうか!
ファンの多くは、気軽にWWEの興行に行けない。地理的な問題も勿論あるけど、日本からアメリカは遠いよなーとか。でもそうじゃなくて、1枚のチケットを10億人と取り合うとか。最前列は一般的な予想をぶち抜くお値段だったりとか。だから会場に見に来てる人って、一生に一度かもしれないし、本気で楽しみつくすぞ!って気合い入ってる人も結構いる。そして作中でもチラッと名前が出てくるレッスルマニアは、世界中で1番の規模を誇るプロレスのイベントだ。WWEって、その規模のイベントを毎年うてる団体なんです…色々な数字だけ見ても圧巻…

なので、役者さん、すごい。WWEのそういう生の熱狂の中やりきった、すごい。私なら記憶飛ぶんじゃないかな。マイク持ったはいいけど、何も喋れなくなるって、めちゃくちゃリアルだと思う。
余談だが、この「マイク」が主な魅力であるレスラーもいるし、試合より舌戦が好きなプロレスファンも実はいると思う。個性も巧さもハッキリ出る。

ちなみに、作中であまり説明がなかったけれども、WWEはまずNXTという部門に入り、そこで切磋琢磨し、認められたりチャンスを掴んだりすると、RAW、もしくはSMACK DOWNに上がる仕組み。これが基本だ。この3つはそれぞれ毎週TV放送されている。この週はこれ、ではなく、この曜日はこれ、である。RAWは月曜夜。マンデーナイトロー。月曜日の夜に家族も知人もひとつところに集まって応援するの、微笑ましいな!

さて、ここまでWWEのことばかり記してしまった。作品自体の話もちゃんとしよう。

私の家族と一緒にたたかっているんだ、というタイトルが超ストレートに描かれていて良い。難しいことやプロレスの細かい部分は抜きにしてわかりやすく、共感できるポイントを押さえていく。

確かにプロレスって、リングの中でたたかい、勝った方が歓声に包まれているイメージが強いかもしれない。でもその一瞬を作り上げるのは、たくさんの人がそれぞれの役割を強い心で遂行した結果なんだ、他のあらゆる業種と同じ。
主人公は典型的な天才タイプだった。つまり、驕ってしまって、反発や指摘に弱い。主人公ひとりでは夢の舞台に立つことはできなかった。
そして本作は、そんな主人公よりもおにーちゃんの方が印象に残る人が多いのではないだろうか。表舞台で歓声を浴びる才能がない者。おにーちゃん自身も夢と現実の壁にぶつかり、苦悩していた。それだけが重要なことだろうか、それだけが幸せの形だろうか。

おにーちゃんの車を待っていた子がたくさんいる。父親も母親も、今まさに服役している身内も、みんな居場所が少なかった筈だ。逆境は人を犯罪や鬱や自殺に追い込む。きちんとデータがある事実だ。主人公が「のけものたちへ」とベルトを掲げる場面がどれほど重要なものであるか。NXTからRAWに上がるためのベルト戦だったかもしれない。お前がRAWでやっていけることを証明しろ。でも、本人にとっても、見ている者にとっても、それだけじゃない。

プロレスって、このように、共感できるレスラーがひとり見つかると全然見方が変わる。色んな人が色んな性格で色んな人生経験を持っているのと同じで、レスラーもひとりひとり違う。
本作の父親のように、どうしようもない乱暴者だったけどプロレスに救われた人もいるし、サラリーマンやってたけど挑戦してみました、という人もいる。
女子プロも、主人公のように、レスラーではなく女として比べられることが嫌だというレスラーもいるし、強さも可愛さも追求する、というレスラーもいる。

本作の主人公、AEWにも参戦している。
AEWというのは、WWEとは別のプロレス団体。団体はつまり、会社だと思えば良い。同業他社。WWEとは毛色が全く違う会社だ。そこに参戦、つまり、WWEを退団し、AEWにレスラーとして入社した、ということである。
AEWに参戦した時、彼女はリングネームを「サラヤ」にした。彼女はずっと、家族と共にたたかっているのだ。本作の外の世界でもずっと、彼女とその家族の物語は紡がれ続けている。
知るほどに心震わせる、その機会が必ずある、それがプロレスだ。プロレスは長く見るものだ、と言われるゆえんだ。

作中で聞けるロック様の決め台詞。あれは実際にロック様が使っているもので、ファンなら誰もが知っており、彼がリングに上がると会場中が一緒に叫ぶ台詞である。日本の人にわかりやすく言うなら、いち、に、さん、だー!である。
本作はこのロック様の決め台詞を日本語吹き替えで聞くことができる、数少ない作品らしい。これは完全なる脱線小噺。

あかん、やっぱり長くなってしまった。長くなったついでに、あとひとつだけ。

主人公がおにーちゃんの技を使う場面。実際のプロレスでも見ることができる。例えば、弟子が師匠の技を使ったり、同じユニット(仲間として共闘するチームのようなもの)のレスラーの技を使ったり。
特別な試合で、特別な技を使う。知っている者が見ると、間違いなくこれも心が震える瞬間のひとつだ。テレビの前にいたおにーちゃんや家族のように。

ここまで何が言いたかったかというと、つまり、本作は見事に「プロレスの面白さ」を映画として物語に組み込めた、すごいな、である。
プロレスは「面白いな」と感じられるポイントがめちゃくちゃたくさんある。その全てを楽しめなくても、楽しめるポイントが見つかったり理解できたら、そこを楽しめれば、それでええよ、という世界だ。
主人公が心折れる寸前のところで息を吹き返す、もそうだし。
使う技のこともそうだし。
リングネームもそうだし。
舌戦もそうだし。
コスチュームもそうだし。
ヒーローが悪ものを倒す、もそうだし。
弱い者が王者に挑む、もそうだし。
悪ものが改心するとか。
ヒーローが闇堕ちするとか。
バチバチな硬派がたぎるぜ!とか。
面白おかしくて笑える方が楽しいぜ!とか。
結果を残せなかった者が運命の出会いを果たし、タッグ(2人1組でたたかう)として返り咲く、とか。
共にたたかってきた者との敵対、決別、とか。
裏切りとか。
和解とか。
ライバルとか。
個性とか。
レスラーを支える者、育てる者として注目を集める人もいるし。
そのレスラーがどのように今そこにいるのか、という歴史もそうだし。
そして
今自分が見ているこのレスラーが、未来どこへ辿り着くのか、もそうだし。
みんなそれぞれ、楽しんでいるポイントが違ったりする。でも、みんなプロレスが好きなのは、共通して「元気をもらえるから」だ。
本作は本当に上手に、プロレスの魅力を映画に組み込んだと感じる。無限にある魅力の全てを詰め込まず、ちゃんと取捨選択している。
この作品を見ていて、心が震えたり、面白いな、と感じるポイントがあったとしたら、それはもう、プロレスの魅力に気付いて楽しめた、その経験を獲得したということだ。

マジで長くなってしまった。正直すまんかった。
LC

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