いろどり

アクト・オブ・キリング オリジナル全長版のいろどりのレビュー・感想・評価

4.4
1965年インドネシアで起きた20世紀最大規模といわれる大虐殺「インドネシア共産党狩り」。国軍が実権を握り失脚した当時のスカルノ大統領の第三夫人がデヴィ夫人。虐殺の直接的映像はなく、虐殺の再現映画をつくる舞台裏で、当時の殺戮者たちを追ったもの。

インドネシアは何と恐ろしい国だったのか。この殺戮者たちに罪の意識はないどころか、国自体が虐殺を黙殺し、この人たちを英雄視していた。驚くべきことに、国営放送テレビでも、彼らを共産主義者撲滅の英雄として称えていた。でも、彼らをモニターで見ているテレビ局スタッフが陰で「よく眠れるわね。呪われないの?」「人を殺しておかしくなった」と言っていたことから、一般国民の意識がずれているわけではないことがわかる。

罪悪感はないと豪語し、我が物顔で街を練り歩く姿はギャングそのもの。彼らにはイデオロギーのかけらも見当たらない。「なぜ共産主義がダメなのか」「なぜ共産主義者を殺さなければならないのか」誰も語らない。アメリカ映画の殺人の方法を真似し、いかに殺人の技術が高いかを誇らしげに語る。インドネシアの国の未来を語る者が一人もいなかった。

絵的に強い人物もいた。
サイコパスを思わせる冷徹な目をした巨漢が強烈だった。再現映画ではなぜだかドラッグクイーンのような女装をしていて、どうとらえればいいのか最後までわからなかった。彼は狂ったままなんだろうな。

このドキュメンタリーは恐ろしい人たちを映すだけでは終わらない。

虐殺の再現映画に出演するにあたり、殺戮者の一人が虐殺される側を演じたことで、後半、彼の中で変化が起きた。罪に対して涙を浮かべ、虐殺現場では激しい嘔吐に襲われるようになる。殺される人間の感情を味わってしまったことで罪に向き合う現実に立たされた。この姿は救いに思えた。これが演出でないなら。
法律が整備されていない発展途上な国の、体制によって変わる正義と悪、人間の多面性をよく表した作品だった
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