ふかい

ファントム・スレッドのふかいのレビュー・感想・評価

ファントム・スレッド(2017年製作の映画)
4.8
"幻想としてしか愛せない男"の苦悩が、人間らしさとの葛藤と、素直になれないもどかしさを時折見せつつ描かれる。ある種ヒッチコック「めまい」から連綿と続くテーマではあるものの、決定的に違うのは女性側の"強さ"であって、その非人間的な扱いに反撥しながらも追従する姿が現代的で心地いい。頑固モノのレイノルズが徐々にアルマによって「自分を他人に委ねる」ことを覚えるようになるのもチャーミングで最高。
PTAはやっぱり世界で一番好きな監督だし、いつもワクワクさせてくれる。まだ生きないと!

再見。
驚くほど作劇が上手い。序盤ではアルマを"堅牢な城に入り込んできた異端者"として描くが、中盤のアスパラをめぐる口論シーンで完全にレイノルズ側の思想の歪みが明らかになり、毒を盛るという行為が自然なものとして受け入れられる。
女性側の自我を無いものとして閉じ込めてきたレイノルズが、強固な意志を持った女性に支配される(気持ちがダウナーになっている時や、身体的に病んでいる時だけ幼児化するマスキュリニティを利用される)と言う逆転の構図も上手い。シリルも、今までよりも"押し"の強い女性を最初は疎ましく思っているが、「彼女が好き」と発言する。
口論のシーンはもちろん素晴らしいが、最初の採寸から最高(「普通に立ってくれ」→「まっすぐと言いたいなら最初からそう言って」の返し!)
プロポーズの場面、あまりにも素晴らしい。テーブルの下に配置されたカメラが徐々に2人に寄っていく。足の付近に口を近づけて起こすというユニークさから、よく分からない文句を並べたあとでシンプルな「Will you marry me?」という台詞。アルマはそれにすぐ答えず、レイノルズをヤキモキさせたあと「yes」と笑いながら答え、逆に「Will you marry me?」と言い返す。それに対しレイノルズは「yes, of course」と即答して笑い合う。なんとドラマチックで映画的な瞬間なのだろう。
アルマがなぜそれほどレイノルズに執着しているのか(特に権力を奪いたいとかいう戦略は無さそう)分からないが、出会ってすぐに「ハンサムさ」に言及しているので、一種の「パンチドランクラブ」なんだろうと解釈。
結婚した後、アルマの食べ方に何か物申したげだが飲み込むという一瞬の場面に、「他者と生活を共にすること」の真髄が詰まっている。
レイノルズがアルマの動きを覗き穴から覗いているショットが良い~「私と口論して勝てると思ってるの?」シリル姉さんかっこよすぎ、、
途中の怪しげなパーティーの場面も、最後に「腹が減った」という台詞で終わるのも、「アイズワイドシャット」とつながっている、という批評を見てハッとさせられた。
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