TaiRa

日日是好日のTaiRaのレビュー・感想・評価

日日是好日(2018年製作の映画)
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森下典子の自伝エッセイを映画化。樹木希林という役者の凄味たるや。

やりたい事もなくて何の気なしにお茶を習い始めた女性の人生を二十数年間に渡って描いて行く物語。典子は従姉妹の美智子と共にお茶を習う事にする。武田先生のお家へ向かう時、二人が通る細い路地は両脇から塀を超えた草木が生い茂っており、それが何だか森の入り口のようにも見えるから、まるでそこを進む女子二人は不思議の国へ向かうアリスである。典子と美智子へ一から茶道を教える武田先生の飄々とした態度はほとんどマスター・ヨーダ。お稽古場面での笑いの間合い、掛け合いのキレ、落ち着いた演出に笑う。典子と美智子が冬に訪れる海の場面はとても良い。コート着た女の子が「海だー!」と冬の浜辺を走る後ろ姿が愛らしい。子供の時に観たフェリーニの『道』を観直したら感動した、という典子に美智子が「典子ちゃんはお茶が好きなんだね」と唐突に言うのは、『道』が愛に気付くまでの物語だから。典子はお茶が好きだと気付いた。典子は就職にも恋愛にもつまずき、果ては愛する人も失う。海でジェルソミーナを想って叫ぶザンパノに自分を重ねる。人生の山谷に寄り添うようにお茶があり、武田先生が側にいる。「桜が悲しい思い出になっちゃったわね」と言う武田先生にも過去に抱えた悲しみを感じる。夏には暑さを、冬には寒さを感じながら、雨の音に耳を傾け、風の音、虫の声を聴き、葉っぱの一枚一枚が生きている事に想いを巡らせる。典子は茶道に学んだ。悲しみに泣き、喜びに笑う内に「日日是好日」の意味を見つける。

かまやつひろしがこう歌っているのを思い出した。
"君はたとえそれがすごく小さな事でも
何かにこったり狂ったりした事があるかい
たとえばそれがミック・ジャガーでも
アンティックの時計でも
どこかの安い バーボンのウィスキーでも
そうさなにかにこらなくてはダメだ
狂ったようにこればこるほど
君は一人の人間として
しあわせな道を歩いているだろう"
TaiRa

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