海老

プーと大人になった僕の海老のレビュー・感想・評価

プーと大人になった僕(2018年製作の映画)
3.7
今年の秋に6歳になり、来年から小学校へ入学する僕の愛娘。孫の為にと、僕の母が用意してくれた、赤いランドセル。初めてのランドセルを背負い、誇らしげに満面の笑みを浮かべる娘の姿から、あの赤い風船を連想します。

クマのプーさんと言えば、ハチミツが大好きで、穴にハマってしまうドジでのんびりしたクマという印象しかなく、原作を観た事はありません。
そんな僕からしても、100エーカーの森は何故か懐かしさを覚えます。土の匂いが伝わるほどの草木の緑、木漏れ日、あの桟橋と小川。知っている風景でもなんでもないのに、何故だか懐かしくてワクワクする。それはもしかすると幼い頃に読んだ絵本の原風景かもしれない。
そして、縫いぐるみのプーがおっとりと語りかける言葉の端々に宿る暖かさが拍車をかける。説教でも格言でもない何気ない言葉が、何故だか大切な事のヒントのような気がして、頭の引き出しを探す感覚を何度も覚える。

ストーリーテロップは単純だし、最後の展開はかなりの綺麗事。でもそれでいい。
全ての綺麗事が罷り通る事はなくてもいい。仕事も会社もやめろだなんて、この作品は一言も言っていない。
「そんな甘くない」と大人は綺麗事を押し殺しがちだけど、そうじゃないかもしれない。何もしない事が良い事に繋がるかもと、そう考えられず、大きな渦を自分達で作って呑まれているだけかもしれない。大人はみんな、「考えるのが苦手」だから。


大人になるにつれて、僕達は色々な事を忘れ、捨ててしまうと言う。でもそれは、新しい事を覚える為に「閉まっている」だけなんじゃないかと思える。だから、こういう映画に触れては、胸の奥の大切な物に心を動かされる。
それに、大人になるのは悪い事ばかりじゃない。マデリンを抱きしめ、彼女に色々な大切な事を伝え、それを見届ける幸せは、大人だから育めるものなのだから。

赤いランドセルを背負い、わけもなく嬉しそうに笑う娘。それと同じ顔を、大人の僕は、もうできない。
でも、その娘を見つめ、ニヤニヤしながらシャッターを切る僕を見て、妻は「親バカだなぁ」と笑った。

そうか。
忘れちゃいけないのは、
こっちの気持ちだな。

赤い風船を、愛する娘へバトンタッチし、優しく100エーカーの森を眺めるクリストファーロビンの心境を思い、重ねてみたりして。

最近は、ベビーカーに弟を乗せて散歩をするのが好きな娘。
こんな「何もしない」時間を特別に、大切にしようと、後ろ姿を眺めた。
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