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ある少年の告白のmaiのレビュー・感想・評価

ある少年の告白(2018年製作の映画)
3.6
最後、実際の家族の写真が流れたおかげでハッピーエンドになりましたが、映画自体は切なさの残るものでした。

大学で男性にレイプされたことで自分がゲイであることに気づいたジャレッド。そしてそんな彼を両親は矯正施設へと送りました。そこでは洗脳まがいのセラピーが行われていました…。

矯正施設やセラピーの存在知っていましたが、こんなにも個人を否定したものだったのか…と驚愕しました。
原題の「erased」が物語るように、彼らは「自分であること」を消すように脅迫されます。同性愛は罪であると認めさせられ、自分の行為ひとつひとつをみんなの前で読み上げるように言われます。そして、自分の罪を認め許してもらえることに感謝をするのです…。
LGBTQを取り扱った作品は最近増えてきていますが、宗教と性認識というのを混ぜた作品は見たことがなく、こんなにも大きな影響力を持つものだったのかと驚きました。
そしてその残酷さが優秀な俳優陣によって描かれるわけです…この作品は特にキャストに意図を感じさせるものが多かったように思います。例えば、矯正施設の長を監督自らが演じ、かと思えばリアルな世界でゲイであることを認めているアーティスト(私はトロイ・シヴァンしか知りませんでしたが…)に「同性愛は罪で、それを治せるこの機会に感謝する」と言わせます。だからこそ、この異様さが際立つように思えました。

現代ですら偏見の目が向けられますが、当時のことを考えると想像を絶するものだったのだろうと感じます。同性愛は罪であり病気である…だからこそ治療しなくてはいけない。そうやって周りの人も本人も信じているわけです…しかし実際同性愛は自分の根幹に関わってくる本質的なものなので、治る治らないで測れるものではなく、結果として「同性愛者のままでいる」自分に罪悪感を感じたり、もしくは上手く隠し通そうとします。
本当は「神は人を打ち砕かない」だと思いつつも、出てくる人全員責められない自分もいました。当時の風潮を許すわけではないけれど、そう信じられてきたのだし、自分が多数側にいると少数者側を「異常」とみなしてしまうことはLGBTQ以外にも多く存在する問題であると思いました。
牧師の父は、息子を愛する気持ちと自分の今までの牧師としての信念との間の矛盾点に立って苦しんだだろうし、母親は息子と父親の板挟みにあって何が最善なのか探すのにもがいただろうし、ジャレッドは治そうとする自分となぜ治さなくてはいけないのかといかりを覚える自分との間で葛藤し続けただろうし…「時代が悪い」と決めつけることは出来ないけれど、当時信じられていたことが本当は違うなんて一般人には決めかねることだったはずで、そのような悩みを抱え、傷つけあってしまうことは、当時の風潮を考えると仕方のないことだったのだろうと思います。もちろん、良くないことですが。
実際、リアル施設長はゲイであったみたいですし…。

あとはキャスト陣の演技が光ってました。親子3人は言わずもがな、セミナー参加者も素敵な演技でした。
個人的に、トロイ・シヴァンって綺麗で危うげな魅力があるので、彼の曲からファッションから好きで…この映画に出てること知らなかったので、出てきた瞬間はビックリしました。あと、ジョー・アルウィンも。
劇場が大きくはないのに比べて、キャスト的には結構力の入った作品だと思います。

ラストの実際の写真がほんとう救いでした。
また、冒頭の「land of opportunity」っていうのにテーマが集約されてるように感じました。本当の自分に蓋をすることも、曝け出すことも、新しい世界を作ることもできる場…良い意味でも悪い意味でも可能性に満ちた場所でした。

終始重たい話題を扱うので暗めなのですが、観るべき映画だと思います。
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