ご存じ西遊記の内、芭蕉扇を巡り牛魔王と対峙する火焔山のエピソードを題材にした、アジア初の長編アニメーション。あの手塚治虫も戦中に本作を観ており強く影響を受け、後の虫プロアニメーション制作のトリガーにもなった、アニメ史上きわめて重要な作品と言える。

冒頭に「この物語は世間で多分に誤解されているような神怪（怪奇小説）ではない。本作は子供達の心と精神を修養する為に作られた。唐僧（三蔵法師）の前に立ちはだかる火焔は人生における苦難を象徴しており、乗り越えるには信念を堅持する事が重要である。互いの協力無くして芭蕉扇は得られない」と、ご丁寧に制作意図を明かしている。
単なる娯楽作品ではなく、日中戦争という重く暗い現実に対する啓蒙と風刺が込められていた事が窺える。といってもプロパガンダのような強引なメッセージ性は劇中には全く見られず、あくまで良質なエンターテイメントとして作られているのは好ましい。終盤、互いに協力しなくては困難には打ち勝てないと説得する三蔵法師の言葉に応じて、火焔山の麓に住む村人総出で牛魔王退治に協力する点においてのみ、その一端を感じる程度か。
子供向けではあるが、日本ではカットされがちな玉面公主もしっかり登場する。人間に化けた玉面公主はベティ・ブープに似ている！悟空の顔もどことなくビン坊を彷彿とさせる。

西遊記の物語の内、後半のエピソードを採用している為、鉄扇公主が孫悟空を憎んでいる理由などは特に説明されないまま物語は進む。中国では国民的文学故、紅孩児のくだりなどいちいち説明する必要もないのだろう。
ロトスコープを採用している為、キャラクターがぬるぬる動く不気味の谷。そのせいか、八戒の足が妙にスラッとしていて笑ってしまった。時々バウンシングボールに合わせて歌い出す八戒かわいい。

全体的に粗い部分も少なくないが、燃え盛る火焔山のエフェクトや、ドアップになる汗まみれの悟空の顔、芭蕉扇に吹き飛ばされて錐揉みになる八戒＆悟浄など、今では考えられないような演出や効果を実験的に取り入れており、粗さも含めて楽しい。

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🎞燃え盛る炎を消すため芭蕉扇を入手する
👍巧拙全て引っ括めて類稀なアニメ史の証

これは面白い