マクガフィン

暁に祈れのマクガフィンのレビュー・感想・評価

暁に祈れ(2017年製作の映画)
3.5
初犯の麻薬使用で「執行猶予付」の量刑相場の日本では、極悪非道な刑務所に送還されることに信憑性がないが、自伝の映画化ならではの設定が効果的に。

レイプ・リンチ・自殺・殺人が相次いたり、ひたすら重いテイストが続くことに。入所時だけでなく、何か揉め事がある時に、看守が人体チェックをすることが環境の過酷さを物語る。問題を起こすと、本当に足カセが嵌める惨めな姿や、狭い独房入れられることに唖然とさせられる。人権無視や過酷な衛生環境以前の問題に、驚くばかりに。更に、このような地獄のような無法地帯も、賄賂が媚びるので、問題を解決できない要因に。賄賂の問題提示をしていないのに、賄賂による腐敗のデメリットが炙り出されることの説得力が凄まじい。

主人公のイギリス人・ビリー・ムーアのベビーフェイスが、タイの囚人達の顔に入れ墨がある不気味さの対象が印象的に。また、言葉の通じない主人公が、過酷な環境に輪をかけることも効果的で、のしかかる恐怖と不気味さを増幅させることに。タイ語に字幕を付けない設定に好感。

刑務所内の居場所を見つけるように、待遇が良い〈ムエタイ・クラブ〉で活動して、肉体を駆使して、のし上がることに。しかし、こんな刑務所に入れられても、ムエタイを初めても麻薬を止められなくて、イマイチ共感できないことに。また、金銭の問題もあるが、戦う理由がイマイチ響いてこない結果が残念に。自伝なので仕方がないが、決してエンタメ作品では無いので、ドラマ仕立て風な展開でなくて、淡々とした展開で強弱がある方が好みではあるのだが。

刑務所を代表して、金銭問題も相俟った命懸けで臨む、刑務所対抗ムエタイ試合は、「ブラックパンサー」のような、民族音楽風の旋律が、心拍数を上げることで、熱量の高さに繋がることにも。

コミカルが全く無くて、重いテイストがひたすら続く展開に疲れたが、妥協ない作成に敬意を表したい。出生後の今も麻薬を止めようと努力しているらしいが、麻薬で、こんな刑務所に入って、過酷な体験をしたトラウマに打ち勝つ、麻薬の魔力に呆れる。刑務所の過酷さが抑止力にも繋がると思いきや、少し違うことに。全体的にイギリス人の麻薬問題とタイの人権問題を炙り出すように感じたことは、映画に没頭したことによる、深読みだろう。