TaiRa

千と千尋の神隠しのTaiRaのレビュー・感想・評価

千と千尋の神隠し(2001年製作の映画)
5.0
2001年ぶりの劇場観賞。大人になると分かるアドバイスを子供時代に貰ってた感じ。そういう映画。

2001年ってのは21世紀の始まりですけど、この年に『千と千尋の神隠し』と『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』が公開されてたのは象徴的だなと。当時、千尋やしんちゃんと同じく「21世紀の子供たち」だった訳だけど、そこで提示されたのが「大人はもうどうしようもないです。あなた達は苦労しますが頑張って下さい」というものだった。同じ年にスピルバーグは親が子供を捨てる『A.I.』を撮っていて、地獄巡りをする子供ロボットの悲哀に涙したものです。前年の2000年には深作欣二の『バトル・ロワイアル』だからね。あれは子供同士で殺し合う映画ではなく、子供が大人を殺しに行く映画だよ。20世紀から21世紀にかけて、映画作家たちは子供たちへ厳しい現実を見せてくれてた。自分の親世代に対する諦めはこの頃に培っていたなと。子供が親の尻拭いで肉体労働させられる話が日本の歴代トップの興収っていうね。

「少女と労働」というテーマは『魔女の宅急便』でも描いているけど、それとは明確に違う。キキは大人になる通過儀礼として上京し、労働者になる。親や大人たちも彼女の守護者として機能している。ただ、千尋は親の不始末によって強制的に働かされる。働かなければ家畜にされ殺されるから。まず負債を抱えている時点で相当違う。それに働く現場は性風俗である。援助交際ブームの真っ只中で宮崎駿はこの映画を作った。もしかしたら庵野秀明『ラブ&ポップ』とセットで観た方が良いかも。いくつかの新作案を破棄して少女たちの映画を作ろうと決めた背景にはそういう社会情勢もあるでしょ。『もののけ姫』の時点で性風俗と女性の問題を描いてたし。カオナシってキャラクターも現代的かつ普遍的。コミュニケーション能力がなく、少女の気をモノで釣ろうとするも、無視されると逆上して暴力を振るう。あれって吉原百人斬りの佐野次郎左衛門だよね。現代にもいるけど。カオナシが沈静化する結論が労働なのも宮崎駿的。『魔女の宅急便』ともう一つ違う点は大人になるタイミング。キキも千尋も映画のある部分で「体調が悪くなる」。少女が大人になる過程で体調を崩すっていうのはつまりそういう事です。それがキキは物語の終盤なのに対し、千尋は物語の序盤、働く事になったその夜に体調を崩す。有無を言わさず大人になる事を強制された感じ。また、遊郭や売春宿において下働きの少女に客を取らせるタイミングってのは「大人になったら」でしょ。赤線を舞台にした映画とか観ると描かれるけど。千尋が大人になる過程はかなり細かく描かれていて、ろくに挨拶も出来ない甘ったれた少女が確実にしっかりとした人間になって行く。その辺の描き分けも上手い。

アニメーションに関しては、宮崎駿の集大成でありながら異質な作品。安藤雅司の存在がやはりデカい。宮崎作品は監督の宮崎駿が原画を直してしまう体制なのだが、安藤は作画監督として更に直したという。紛うことなき宮崎作品だが宮崎駿的ではない作画が全体に及ぶ異様なバランス。唯一無二。

千尋のモデルになった女性、昨年結婚したそうです。
TaiRa

TaiRa