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スパイダーマン:スパイダーバースのtrickenのネタバレレビュー・内容・結末

4.9

このレビューはネタバレを含みます

2019年の初めにこれを喰らってしまって、「こんなのに他の2D, 3Dアニメーション映画は勝てるんだろうか……!?」とショックを受けていたけれど、その後の夏のあいだに国内から『怪獣の子供』『プロメア』『天気の子』と続いて「あっ、浅はかだった、すいませんまだまだ多様な表現がある」と反省した。それでもなおこのアニメ映画は素晴らしい。数年は色褪せない水準だと思う。

以下、映画館2度目の時に作成したメモをぺたり:

-じつはPS4版スパイダーマン(スパイダーマンの、お話の独立したビデオゲームです)にもマイルスのスパイダーマンになる描写が入っていたのでモラレス&アフロ系家族という組み合わせは知っていた。あちらではマイルスの父親がチャイニーズマフィアおじさんに殺されてしまうのだけども。
-マイルスの「優等生」「地元では人気者」「新しいところでは馴染めない」「父親のことは好きだけど好みや距離感が色々合わない」「ママは子煩悩」「最新の曲を追いかけてグラフィティ研究に余念のない今時のサブカル男子(マイルスが日本人ならあの音楽はハチのボカロ曲とかking knuとかk-popとかですかね?)」「叔父さん大好き」「父さんがスパイダーマンのことを、顔を隠しているという点で気に入らない」などが高速に開陳されていく、すごいーですねー。
-グウェンはMJと違って死ぬことを宿命づけられたヒロインですがそれを逆転させたのがスパイダーグウェンだったんですね。バレエダンスの振り付けだと気づいたのは一回目を見た後だった。グウェンは刈り上げもかっこいいけど刈り上げ前のほうがよりいいですね!!! #ボブ廃
-ペニーパーカーは他の萌えてる勢よりはややドン引きだったんですが、「8コマ撮り」であるという技法に着目して見直したらより可愛く見えた。二度目は脇役三人組ばかり見てたな。EDのスタイリッシュPVではぺにーのロボットの絵がわずかしか使われておらずその点は可愛そうでしたね(これは2回目に気づいた)
-ペニーパーカーを「海外で飲むインスタント味噌汁」と言った人はえらい。
-ノワールおじさんがルービックキューブができないやつ、あれノワール世界から来たから色覚を持たないという話だったんですね! 2回目で気づいた。ラストでちゃんと揃えていたのはえらーい。
-ピーターBが「日課の筋トレをしながら……」と言いながら寝ながらピザ食ってるの、ヒーローとしての矜持と老いゆくに従い鈍っていく決意がダラダラとした中に拮抗していてよかった。お腹のだらしなさは後半に行くに従い少しずつマシに見えるのは、マイルスのバースに来てから痩せたのか、単に視聴者が慣れるのか。
-番宣では宮野真守が無印ピーターとして喋ってるのに実際に活躍するピーターBは中年の危機に直面しているという予告詐欺はいい詐欺だった。
-おばさんがすっかり発明家系サイドキックとしてドヤってるのかわいいですね。
-スパイダーマン固有の悲しみ「愛する近親との離別」をpeer counseling する機会をスーパーヒーローは持てないけど、クロスオーバーであれば可能なのだ、というメッセージは、単に人気作を掛け合わせればいいじゃん的な雑なクロスオーバー発想と一線を画していてよかった。その背景にはアメコミ的な「このカテゴリのスーパーヒーローは何をどうリブートしてもこの種の悲劇には直面する」という宿命論があって……TORGとかもこのようでありたいと思ったよ。
-マイルスがモニタごとPCを持っていくシーン、PCの仕組みをいまいちわかってないことが伝わってよかったね……。
-叔父さんの身体能力がやけに高いことは、自室にサンドバッグを吊るしていたり、地下道の柵を軽々飛び越えたりすることであからさまに示されていたのに、1回目はその可能性に思い至るのが遅れたんだよねえ。2度目に窓から侵入してくる流れも、冒頭でマイルスが窓でイタズラ変顔していることが効いてるし。
-ビルから飛び降りる時の「AAAAAA」が、覚醒後に成功している時の「HOOOO」(だっけ?」と対の文字デザインになってるの、よかったよね……
-スパイダースーツがいろいろあるのはPS4スパイダーマンで予習しており、よかった。マントスーツは知らなかったけど。
-マイルスの蜘蛛シンボルに、塗料による垂れが入ってるのが洒落ててかっけえですね。
-ペニーパーカーはいつもあの10円ガムみあいなのもりもり食べてる設定なの? あのガムも未来製なの??
-ノワールおじさん、吹替は大塚明夫で、オリジナルはニコラス・ケイジ。
-ED後の坂本真綾声のサイドキックに支えられたスパイダーマン、次作ではコンビで出てきてほしいですね。バース67は古すぎて本編でコラボするの大変だろうけど。
-レオパルドンが出てくるならたぶん部分的にパシフィックリム的なノリになりそうですね。ニューヨークが。
-自分、PS4スパイダーマンの影響で、あのラジオでずっとスパイダーマンをdisっているニューヨークの小林よしのりみたいなやつが(物語構造を支えるダメおやじとして)大好きなんですが、モラレスのバースにもいてほしいですね。
-ブラックパンサーもそうでしたが、ヒップホップやEDMの劇伴の水準がめちゃめちゃ高いですよねー。
-ピーターBが「子供作るのが怖くてMJと離婚した」というの、なんか個人的にすごく刺さった。父になるだけの責任とか強さとか、脅威から家族を守れるかとかの不安がピーターBにきっとあって、しょぼくれてたんだろうな。雨のベランダで膝抱えて泣いていたの心に来たわ……元のバースでは信じて跳んでくれよな。
-まーキングピンが強いですね。あのひとなんであんなに強いんだ? PS4版でも冒頭で殴りに殴ったけど、その後のオクタヴィアス博士とかよりよほど素の人間として脅威だよ。
-一瞬だけアメコミ調の画風になりながら時間は止まらずに通常のカメラアイで進行するあの撮影法、これまで考えていた「アメコミはコマ割りが日本的マンガより平板」の問題よりさらに先に進んだ何かであるように思っていて、日本のアニメでも何かああいうのできないだろうかと思った。しかしあれの仕組みがなんもわからないです、素人すぎて。
-前編が超技術によるMVという感じで、何度でもみてられる。なのに単なるドラッグムービというわけではなく、きちんと不安や孤独に誰もが立ち向かって大事な人を守れるし、その意思を持つもの同士は仲間なんだ、というメッセージを過不足なく伝えてるし、単なる多様性尊重でなくて、「こんなに多様でも引き受ける宿命は同じ」という技アリが織り込まれての多様なスパイダーマンだしで、あらゆる現代的描写に伝統的アメコミの宿命とヒロイズムとが秩序を与えてるところがすごかったです。#語彙力
-好きな描写は、マイルスとBパーカーがあってしばらくして、ビルの壁面で揉めながら追いかけっこしてるところ。あれも「孤独じゃない」の描写のはじまりであって、凡人からみたら「2人の男が壁を上方に向かって登っている」なんだけど、あのカメラからみると「前方で壁歩きしている男が後方で壁歩きしている少年においかけられている」ということになるんですよね。スパイダーマン的視点から二人の位置関係を眺めることができている。ああ、スパイダーバースに嘘はねえなと思った瞬間の構図です。
-マイルスは無印ピーターパーカーに「上に行ってきて」とUBSメモリを渡されるんだけど(ハイローですね)、上に行く力がまるでなくて、むしろ重力に負けてひたすら落ちていく。落ちきったところでメモリも壊してしまう。なのにそこから少しずつ潜って(研究所に)、飛び上がって(ロープアクション」、潜って(おばさんの秘密基地)、と少しずつ上下移動を繰り返していく。で、覚醒したマイルスは、「自分の意思で落ちる」シーンで、カメラとしては「上にマイルスが落ちる」という構図で撮られてるんですよ。これは、故ピーターに遺された指令であるところの「上へ行ってくれ」を果たす力と意思とをついに手に入れた、という記号的表現でもあるわけですよ。やべーなスパイダーバース!
-そして「信じて跳べ」のBパーカーは、自分の意思で奥へ落ちていくんですよね。「いつでも落ちては登る自在の意思があれば、落ちることは、単に下へ落ちるだけでない、希望的前進の意味を帯び始める」という空間的記号操作があるとおもうんですよね。
-いやーーーーいい作品じゃわ!!!
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