まゆ

響 -HIBIKI-のまゆのネタバレレビュー・内容・結末

響 -HIBIKI-(2018年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

いや、申し訳ないことに完全に「意外」だったのですが、
とても良かったです。こんなにいいと思わなかった。
観る前の予想点数は甘めで2.8〜3.4点、まぁ3.2点でいいとこかなと思っていました。

連休中日の日曜日に田舎の映画館で鑑賞。
ガラガラという前評判と、朝イチでオンライン予約をした際には席が一つも埋まっていなかったことから、お一人様か?と思いましたが、
行ってみたらそこそこ人が入っていて、最終的には30人ちょいは入っていました。
平手友梨奈さんのファンかな?という若い男の子・女の子のグループや、お一人様の中年男性・女性、家族連れといった客層。
初動はそこそこだったようですが、まだ伸びる余地はありそう。

ちょこちょこ役者が力不足だなと感じるシーンはありましたが、
恐らく普通の映画ファンが一番懸念するであろう主演は問題なしと思いました。
寧ろ、私の中では平手友梨奈さん演じる響という少女が素晴らしかったために映画全体が高評価となりました。
ただ、彼女の感情と行動をどう理解するか、楽しめるかどうかで、作品の感想が大きく変わるのかなとも思います。

脚本は可もなく不可もなく。気になる点もありましたが
(序盤響の出るシーン、文芸部での騒動の次が急に翌日かい!それをリョータが台詞で説明するんかい!とか
 ラストに向かって話を転がす記者の描写は少し雑じゃないか?とか)
でもまぁ普通にまとまっていたと思います。
脚本には原作者さんと平手友梨奈さんが相当ツッコミを入れたそうですから、それでよっぽど形になってなかったらどうしようかと思っていました…はは。
ストーリー自体は、それこそ良い小説のような文学的テーマや重厚さは感じられませんでしたが、
普通に演者のお芝居を楽しめる映画になっていました。
演出はそこまで印象に残る程ではないけど、いいな、なるほどな、と思う部分がありました。

暴力的なシーンは、事前にレビューを見た際に否定的評価が目に付いたので、暴力や痛いのがまったくダメな自分は楽しめるか心配でしたが、
予告にもあるパイプ椅子でぶん殴るシーンこそちょっとやり過ぎか…と思ったものの、
基本的に平手友梨奈さんの、幼さのある怒りの衝動の表現が上手だったのと、
やられ役の方々が達者だったことで、
自分は嫌な印象を受けることなく観終えることが出来ました。
特に柳楽優弥さん演じる田中の、一度殴られた後のホームでの怖がり方はこっちの心情とシンクロして笑えました。

パイプ椅子のシーンについて更に言えば、壇上で響の攻撃スイッチが入る所の芝居が良かったです。
時間差攻撃ですから、くすぶった怒りとスイッチが入る瞬間の表現が重要なシーンでした。
そういう意味では、脚本・演出でもう少し明確なスイッチが設定されていると自然だった気がしますが、
田中の若干の嫌味ったらしさに対して響のスイッチが入った瞬間、
ちゃんと表現されていて、二人の芝居がおもしろかった(笑)

暴力に関しては、レビューで度々「文章力があるのになぜ言葉ではなく暴力に頼るのか」といった感想を見かけるのですが、
いやいや、彼女は小説家であって、言論で闘う評論家でもジャーナリストでもなんでもないし、
彼女の暴力は、製作者の意図とは違う感想かもしれませんが、正義のための暴力ではなく、制御できない感情、衝動の結果だと思います(下に詳述しましたが)。
有名な文豪を思い出して下さい、心中、自殺、切腹、悲惨な生涯…(笑)
劣等感、恥辱感、不安感、葛藤などなど、健康(普通)な人はそこまで感じない感情を感じ抜いて表現している(病的な…)文豪を思い浮かべると、
小説家の言葉やふるまいは、良いか悪いかは別として、合理性ではなくひたすら感情に根差したものである方が自然に思えます。
そういう意味で、響の行動は天才小説家らしいと言えるのではと思いました。

ロリータ服のシーンは、ともすればただのファンサービスになって作品の質を落としかねないと思いますが、
最初に着た時の響の台詞・演技と、授賞式控室での田中の台詞・演技で緩和されていたし、作品に上手くハマって笑いどころになっていました。

ラストは、演出、脚本、お芝居どの問題か分かりませんが、もっと台詞を使って「オチ」にしてしまって良かったのではないかなぁと思いました。
クライマックスが近づいた時に、原作既読の自分は、なるほど「オチ」はお金の話か、と読めると同時に納得して、
それはおもしろいなと期待して待ったのですが、
サラッと流れてしまったのでちょっと終わりとして締まりがなかったかなと。
あと、ラストカットは何を象徴したかったのか私には意図がイマイチ汲み取れませんでした。

以下、更に各役者さんのお芝居とキャラクターについて非常に長い感想レビューを書かせて頂きます(^^;)

●響・平手友梨奈さん
私は先述の通り原作既読で、かつ平手友梨奈さんは音楽番組やMVでの感情表現が好きで良い印象を持っていました。
しかし、自分は割と好きなタレントさんでも芝居や歌が下手でガッカリしてしまうことが良くあるため、
平手友梨奈さんに関してはどうかなぁと心配していたのですが、
少なくとも今作の平手友梨奈さんのお芝居は申し分なく、
重複しますが彼女がこの映画の高評価の一番の要因でした。

昨今、発達障害やサイコパスという言葉が本来の意味を離れて安易に使われており、本作の感想でもその言葉を見かけました。
原作を読んでおり、ずっと精神医療の勉強を続けている自分としては、響はそうじゃないだろう、と、
また発達障害が間違った使われ方をしているんじゃないか、と思っていました。
しかし、平手友梨奈さんの響は、サイコパスは論外ですが、確かに、何らかの理由で発達に問題を抱えている子、普通に育った多数の人とは違う子、生きづらさを強く感じている子のように見えました。
自分の話ばかりで恐縮ですが、私自身、過去、精神的な問題で長年苦しみ、
発達障害じゃないかと医師に言われたこともあります。
現在は完治しており自身でも勉強を重ねたので、それは誤診であったことが分かっているのですが、
響の衝動性、こだわり方、内向的さ、周囲とのズレは当時の自分を思い出して感情移入しましたし、
平手友梨奈さんはそういう状態の人間の感情をリアルに表現していると思います。
映画の響が、たとえば被虐待児という設定だったら納得してしまうとも思いましたが、
まぁそういう話ではないですし、とりあえず自分の中では先天的な要素の強い自閉症スペクトラムのような感じ、という感想に落ち着きました。
見ていてかなり冒頭から、ずいぶん前に観たテンプル・グランディンの映画を朧気に思い出す感じで、
最初はモンスターのようなおもしろさがあり、それから守ってあげたくなるような、子どもっぽさというのか純粋さというのか不器用さというのか…そんなものを感じるようになりました。
そういった印象を抱かせる平手友梨奈さん演じる響は、
多くの方の感想や平手友梨奈さんの狙いとは異なるのだと思いますが、
原作の響とは違った印象のキャラクターでした。
そしてそれは、原作の響とはまた違った魅力のリアリティさ、切実さ、かわいらしさでした。
そして、これもまた多くの方の感想と異なると思いますが、そういった印象を抱かせる映画の響は、素の平手友梨奈さんとは随分違うキャラクターのように感じました。
呼応する所があるからこそのリアルさでしょうが…

話としては小説と才能が中心ですが、
私としては響の感情、行動、他の人とのかけ合いがおもしろく、いじらしく、
天才がどうのという部分にはあまり関心を持ちませんでした。
というか、不器用な響が周りの人とつながって生きていくための、支えみたいなものとして才能が機能しているなぁと思いました。
また、私としては、彼女の言うことには別段、正しさを感じませんでしたし、
周りの腐った大人を成敗する、スカッとする、みたいなことは微塵も感じませんでした。
そもそも彼女に暴力を振るわれる人々は皆、どこかに精神的な幼さを残しながら懸命に生きている本当に普通の愛すべき人々です。
響が言ってることや考え方、行動は癇癪持ちの子どものようなもので、そこには合理的正しさも相手に対する深い理解もないと思います。
彼女は人の気持ち自体は分かるけれど、すぐに攻撃スイッチが入って相手を敵視してしまうのだろう、と感じました。
ただ、そこには彼女なりのものすごい誠実さと感情の不器用さがある。
それが愛らしいなと思いました。
ですから、確かにこの映画は『響』というタイトルがぴったりな、響という一人の少女の感情が良く表現された映画だと思います。

響の感情の動きがおもしろいシーンは、攻撃スイッチが入るシーン全般そうですが、他にもたくさんあって、
平手友梨奈さんは響をよく理解して身体に落とし込めたのだなと思いました。
ひたすら芝居が見ていておもしろい。

気になったのは、予告にもある小栗旬さん演じる山本との踏切でのシーンで、
若干説明台詞のような、ちょっと読みにくそうな台詞の読み方をしたように感じた部分が1箇所あったことでしょうか。
滑舌スキルのせいかな?

そこ以外は基本的に、感情が本物で、内側から響を表現しているような、素晴らしい存在感でした。

主題歌も平手友梨奈さんということで、アイドル映画だなぁと思いましたし、
少々ガッカリしそうで恐れていましたが、
平手友梨奈さんの叫びのような声は、映画を通して響に感じた生きづらさ、切実さそのままで、響の心理描写にハマった自分にはとても良かったです。
いやはや、EDまで響くとは予想外でした…。

●準主役級の人々
・北川景子さん。そもそも私は彼女のような、TVの露出が多いタイプの女優さんが出る作品をあまり見ないのですが、
数少ない視聴経験から、元々あまりお芝居は上手でないという印象でした。
残念ながら、イメージ通り、この作品でのお芝居も少々微妙でした。
腕の組み方や立ち方が不自然だったり、かけ合いが無駄に力んでいたり、
こなせていないな、役やシーンを掴み切れてないな、と思うことが多々あり。
ただ、北川景子さん自身の人柄はとても良い印象ですし、初主演で難アリ?(笑)な平手友梨奈さんの相手役として
現場でとても良いお仕事をされたのではないかなぁと想像します。
また、「響(の才能)を守りたい」という芯の感情は十分伝わってきて、魅力的なお姉さんといった感じでした。
・アヤカ・ウィルソンさん。良いシーンと微妙なシーンがパカッと分かれた印象です。
葛藤や喧嘩のシーンなど重要な心情はとても上手く表現されていて、何度も泣かされました。
でも、登場など少し説明的なシーンや笑顔のシーンで、入り切れていないかなという箇所がありました。
・小栗旬さん、柳楽優弥さん、他オジサン(笑)。さすがでした、言うことなしですね。それぞれ自分の役割を十二分に果たしているといった印象です。柳楽優弥さんは既に何度も言及した通り、全体的に芝居がおもしろくてかなり作品を助けていたと思います。小栗旬さん演じる山本は、踏切で焦る凡人感が良かった(笑)小栗旬さんの、山本が報われるシーンの演技が見たい…。

●その他
・文芸部男子。リョータが出だし下手で心配になった…(笑)でも、タカヤはかなり好演していたと思うし、文芸部員同士でワイワイしている所や男二人のやり取りは等身大の10代って感じで良かったです。
・脇役の人々。田中が働いていたピザ屋の店長、めっちゃインパクトありました。お上手でした(笑)レポーター役の女性、わざとらしい(?)下手さがシュールでおもしろかった。新人賞審査員の作家の方々は皆さん短いシーンで上手く作品上の役割を果たされていて、素晴らしいなと思いました。
まゆ

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