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未来のミライのすのレビュー・感想・評価

未来のミライ(2018年製作の映画)
4.5
上手に生きる為のライフハック。
インナーチャイルドをあやすことと、
先祖や新しい命を繋がりある家族として受け入れる課題をクリアすることで、自己の存在証明を得る話。


くんちゃんの最初の主張は「くんちゃんはくんちゃんであって、ミライちゃんのお兄ちゃんではない。ミライちゃんのことが好きくないから。」


この主張は結局、くんちゃん自身がくんちゃんの居場所を排除してしまう自己虐待だったんです。
だってくんちゃんは既にミライちゃんのお兄ちゃんであって、それは揺るがない事実なのですから。
事実を否定すると、人は居場所を失います。「こうでなければならない」「なのにそうあれない」というジレンマから受ける精神的負担は計り知れません。


これは何も子供の地団駄ではなく、大人になった我々にも身近な話です。くんちゃんは我々のインナーチャイルドに重なる存在です。くんちゃんの感じた息苦しさを、懐かしいと思う心がヒントです。


ではくんちゃんはそこからどうやって「ミライちゃんのお兄ちゃんである事実」を認め、己の居場所を己で用意していくのか、それがわかりやすく描かれています。


飼い犬も過去くんちゃんと同じ思いをしながらくんちゃんを家族として迎え入れたこと。
母親も昔は自分と同じように大人を困らせてばかりの子供だったこと。
ひいじいじが好きだったバイクに自分も乗りたいと衝動を得ること。

新しい家族を迎え入れることは受け継がれてきた儀式であり、くんちゃんの課題はかけがえのないDNAからくるものだったということを、くんちゃんは知ります。
点が線になるわけです。


終盤にはそれをキチンと学んだか確認する試練が訪れます。迷子になったくんちゃんは遺失物センターで
「失くしたものは、自分自身ということですね」と言われます。
ここでくんちゃんは家族とは何かの上手な説明が出来ず、自己の存在証明は自己だけでは得られないと知るのです。


みんな誰かの子供であり、大切なDNAを受け継いできている。どんなに好きくなくても、その事実を認めずにいたら"自分自身"を失くしてしまうのです。
「くんちゃんはミライちゃんのお兄ちゃんだ!!!」という大正解によって、この世の種明かしがされます。
きっとくんちゃんはこれまで以上に家族を大切にし、それによって自分を大切にすることができるでしょう。
血を認めることは自分を認めることです。


当然のことのように思えますがとても難しい問題です。ここで正解を言えずに、人生を迷子のまま過ごしている人も数多くいるからこそくんちゃんは物語の主人公になり得たのです。


しかしこれは「いい子の見本」というわけではありません。なぜなら未来のくんちゃんの姿はありふれた高校生なのですから。

くんちゃんはただ、そのとき迷子にはならなかっただけなのです。大人になっても何度でも思い出さなきゃいけません。多分高校生のくんちゃんは迷子になったとき「ミライちゃんのお兄ちゃんだ!」なんて言えないでしょう。
人間はすぐに忘れてしまう生き物ですから。


未来のミライを見た視聴者は自分が何者であるか思い出す/調べる機会を得ることができます。これは自分の居場所を自分で奪っていないかの再確認の場でもあります。
他人事と思わず、大切に見るべき映画です。
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