このレビューはネタバレを含みます
初めは、イ・ビョンホン演じる孤独な中年ジョハの姿が人生を諦めた様に見えました。
母親に捨てられた悲しみ、独りで生きて来た孤独、ボクサーとしての栄光からの転落、もがき苦しんできた人生だったのかもしれません。
そんな彼が、母親と再会したが母親は自分の知らない子と暮らしていた。
弟よと言われたサヴァン症候群を患うジンテの存在に戸惑い、弟を溺愛する母親を自分には与えられなかった愛情を感じてしまうジョハ。
母親にとってジンテを育てる事が唯一の生きがいで、その為の沢山の苦労から強くなっていったのでしょう…それが故にジンテのアクシデントに対してジョハを攻めてしまいます。
その言葉に愛されない自分を思い知らされるジョハ。
自分を否定する母親の言葉に、諦めた様な悲しみに満ちた瞳が彼の孤独感を表してました。
でも、母親にも息子を捨てて死のうとした事、サヴァン症候群のジンテを育てる事を生き甲斐に生きて行く中で強くならなくては生きられない人生が有りました。
お互いの心の傷を触れない様によそよそしく生活する不器用な母親と息子。
その中で仕方なくジンテの世話をするジョハ。
ジンテの世界には、自分だけの世界が有りピアノによって彼の世界はイキイキと輝く事を知っていくジョハ。
しかしジョハには家族とは自分にとって無縁な物で有り深い心の傷だから、また離れて独りで生きようとします。
それはまた家族に捨てられる絶望感から逃げる様に…母親が死ぬと分かっても弟の世話を願ってると分かっても。
そんなジョハの気持ちを察して、病床の母親は旅立つ事を責めずジンテは施設に入れると言いました。
母親として昔も今も何もしてあげられない悲しみと後悔からの言葉に涙が溢れました。
ジンテのピアノの才能を開花させた音楽会のシーンは、本当に素晴らしかったです。
楽しそうにピアノを弾くジンテの姿とそれを見て感動する母親とジョハ。
2人の気持ちがひとつになった瞬間でした。
やっと家族になったのに亡くなってしまった母親。
でも、ジョハに弟という家族を残してくれました。
それぞれの世界で生きて来た兄と弟。
孤独だけしか無かったジョハの世界。
ピアノの世界で自分を表現出来る喜びを知ったジンテ。
これからもそれぞれの世界でお互いを認めながら生きて行くのだと思うエンディングでした。
ジョハと母親と弟ジンテ。
それぞれの演技が素晴らしかった映画でした。