このレビューはネタバレを含みます
これはすごい。どんな名作でも、この部分はこうした方が、と思う部分ってあると思うんだけど、それが全くない展開だった(もちろん個人の意見ですが)
途中、川栄李奈が薫子の家に訪ねて来るシーンで映画の雰囲気が切り替わるのがいい。それまでは、瑞穂が目を覚ますという期待が感じられるような、彼女が元気であれるような働きかけに一縷の望みも感じられる気がして、家族が前向きに歩んでいる雰囲気だったが、川栄が訪ねるところから、狂気さがじわじわ感じられる演出になっていたと思う。
それはつまり、他人である川栄の投入により、第三者の目線から見た瑞穂の姿・母の姿が写されるからだ。彼女たちがやっていることが客観的に見てどう写るのか、不穏な感じになっていく匂わせ感が上手い。
篠原母の行動は冷静にみるとそれはやりすぎなのでは、、?母の愛を感じる感動系の作品かと思いきや、ん、、?という視点を与えてくれる。
そこから、母親のいきすぎた愛情、坂口健太郎の歪んだ熱意が顕著に出てくるんだけど、果たしてそれが本当に「いきすぎ」なのか「歪んだ」ものなのか、私はそう思うし、そう感じる人が多いとも思うけど、簡単にそう言い切って批判できるようなものでもない。
登場人物のどのキャラクターの気持ちもよく理解でき、悪い人がいないのもいい。
移植される側の思いに触れているのもいい。
山場の包丁のところでの、「娘を殺したのは私でしょうか」というセリフ、あれはこの作品の大きなテーマを端的に表す的確な言葉。この作品は大きな問題提起を我々に投げかける作品であるから、疑問形のこのセリフこそ、この映画を象徴するものだと思う。
正直、ポスターとかCMにこのセリフのってたときは、何か安っぽい感じというか、作品のあらすじを匂わせるような感じがしてそのセリフピックアップしなくていいんじゃ?と思ってたけど、映画を観るとこの作品におけるこのセリフの重要性に気づく。
ラストシーンで、篠原涼子は夢で瑞穂が現れた日を命日と捉えていて、西島秀俊は心臓が止まったときが死なんじゃないかと述べていて、それに対して主治医が、「それなら瑞穂ちゃんはまだ生きてますね(心臓移植して移植先で心臓はまだ動いているから)」と言ったこのシーンも、なんとも言えず深い。
ここだけでも、死の概念について考えさせられる。
テーマを置いといても、序盤の伏線が回収されたり、映画のつくりとしても秀逸だったと思います。
山場の、瑞穂に包丁突きつけるシーンも、この事件をどうやって収束させるのかすごく難しいと思うし、ここの持っていき方次第で下手すれば映画のできが一気に下がってしまうと思うんだけど、母が娘を刺して一つの「答え」「結果」の出し方ではなくて、子役たちの独白で収めるやり方もとても良かった。上手いと思いました。