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赤い天使のThePassengerのレビュー・感想・評価

赤い天使(1966年製作の映画)
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数ヶ月前に観た「清作の妻」は、私が監督・増村保造に抱いていたイメージをいい意味で覆す傑作だった。そして今回鑑賞した「赤い天使」の内容もまた、それと肩を並べる重厚さであり、彼の類まれな演出力に対してはただ感嘆する以外になかった

日中戦争最中の前線に配属された従軍看護師の姿を感傷に流されずリアリズムに徹して描いた様子は、ロッセリーニ「無防備都市」などに通じ、独白を用いたうえでの抑制されたドライな語り口はハードボイルド小説を想起させる。本作がフランスを始め欧州で評価が高い理由のひとつには、あるいはそうした部分が挙げられるのかもしれない

主人公の西さくらが両腕を失った兵士の肉欲を慰める件で、男が足指で女の秘部をまさぐる場面は増村保造らしい淫靡さが漂う。戦争ドラマとエロチシズムを融合させる芸当は恐らく誰にも真似出来ないのではなかろうか

人と人とが殺し傷つけ合う無意味さを問いかける一方で、話の中心にはヒロインのひたむきなまでの純粋な愛が据えられており、その点では「清作の妻」に符合した異色のラヴストーリーだ

複数のエピソードを挿入しながらも、極力無駄なショットを削ぎ落して、90分強の尺に収めたソリッドな構成は見事としか言いようがない。120分以上の長さが当たり前になってきた昨今の映画のなかには半ば不必要と思えるシーンも散見され、各シークエンスにおける配分検討の必要性を改めて感じさせた

白衣を血で染めつつ負傷兵たちの救護に当たり、終盤では相手の襲撃を受けて自らも銃を手に取る西さくらのタフネスな人物像は、リプリー(「エイリアン」)やサラ(「ターミネーター」)の原型を窺わせる。「さくらはパッと咲いて、パッと散る」彼女のそんな台詞が耳に残って離れない

(2023-65)
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