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赤い天使のBOBのレビュー・感想・評価

赤い天使(1966年製作の映画)
3.9
増村保造監督×若尾文子による戦争ドラマ。

日中戦争下の1939年。中国大陸の陸軍病院に派遣された従軍看護婦が、負傷兵達に同情し、モルヒネ中毒の軍医に恋をする。

「兵隊は人間ではない、モノだ。」

凄まじい。従軍看護婦の視点から、リアリティのある映像の暴力によって、戦争の地獄と人間の尊厳を描いたパワフルな反戦映画。戦争が人間を壊れ物にしてしまう様をまざまざと見せつけられる。戦闘シーンのある日本の戦争映画はあまり観たことがなかったが、実際に戦争を経験した世代の人々が作る戦争映画は情け容赦ない。

リアリティ溢れる映像の力にただただ圧倒される。心身ともに傷付いた兵たちで埋め尽くされた阿鼻叫喚の野戦病院では、「痛いよ〜」「おかあさ〜ん」「見捨てないでくれ〜」と泣き叫ぶ声があちこちから聴こえてくる。吐き気がするほど生々しい手術。敵のスパイによって饅頭にコレラ菌を打ちこまれ、コレラ蔓延。従軍慰安婦。壮絶な銃撃戦。服も銃も全て剥ぎ取られた丸裸同然の死体が並ぶ。

極限状態における性欲の在り方を描いた作品でもあった。冒頭から、欲求不満の負傷兵たちが看護婦たちをレイプする。一番キツかったのは、両手を失った兵士が、看護婦さくらに性処理を頼むシーン。平常時には考えられない人間の浅ましさや惨めさが抉り出されたようなシーンで、そこまで人間は落ちてしまうのかと心抉られた。

軍医の苦悩も計り知れない。医者としての倫理と戦場の現実との間で引き裂かれる。「見殺しにするか、かたわにするか」の決断。国民に反戦感情を抱かせないため、負傷兵を本国には帰還させずに僻地に収容するという隠蔽工作への加担。現実逃避のためにモルヒネ依存症に陥ってしまう。

「さくらはパッと咲いて、パッと死ぬ」若尾文子扮する"赤い天使"こと従軍看護婦・西さくら。両腕のない負傷兵の食事、下の世話、性処理まで行う。看護婦も"女の兵隊"として過酷極まる戦場の最前線で戦っていたことを痛感させられる。

西がなぜそれほどまでに軍医に惚れたのかだけは最後まで腑に落ちなかった。彼女は戦場に舞い降りた"天使"で、全ての傷付いた男達を癒やすことが仕事だから、というような象徴的な意味合いでならば理解できなくもない。

「戦場では心は要らん。快楽だけあれば良い。」

「名誉の戦死」「かたわになっても死ぬよりマシだ」

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