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ボーダーライン:ソルジャーズ・デイのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

アメリカのスーパーで不法入国者の自爆テロ事件が発生。政府から特命を命じられたCIA特別捜査官マットは、麻薬カルテルに家族を殺された過去を持つ暗殺者アレハンドロに協力を依頼。麻薬王の娘イサベルを誘拐し、国境地帯で密入国ビジネスを仕切る麻薬カルテル同士の争いへと発展させる任務を極秘裏に遂行するが……。

アメリカとメキシコの国境地帯で繰り広げられる麻薬戦争の現実をリアルに描いた「ボーダーライン」の続編。
サスペンス・アクションであると同時に「フィルム・ノワール」の秀作だ。

前作は若い女性FBI捜査官ケイトが麻薬戦争の過酷な現実を目の当たりにする「地獄巡り」の旅。
若い捜査官の倫理的葛藤や周囲との衝突が、見る者(部外者である一般人の我々)の心情を代弁しており、「なんと酷い世の中なのか…」と重苦しい余韻を与えていた。

気性は荒いが、温室で育った麻薬王の娘イサベルや密入国ビジネスに引き込まれていく少年ミゲルが登場するものの、本作には部外者の視点が減っているため、ほぼ荒涼とした非情なるハードボイルドな「男の世界」。
それがアクションとしての見やすさに繋がっている。

前作から僅か数年の経過で、アメリカとメキシコの国境では、麻薬密輸だけでなく不法入国が問題化している描写は印象的だ。
麻薬戦争でメキシコが政情不安になれば、アメリカへの不法入国も増える。
それがまた犯罪組織のビジネスになるという悪循環である。
家族連れで賑わう平和な買い物風景が一瞬にして地獄絵図になる、冒頭のスーパーでのイスラム過激派による自爆テロはかなり衝撃的。
映画では不法入国のビジネスが、テロリストの侵入にも繋がる可能性があると示唆している。

主人公であるマットとアレハンドロは、麻薬だけでなく密入国ビジネスも執り仕切る複数の麻薬カルテルを潰そうと、片方の麻薬王の娘を誘拐して同士討ちを狙う。

劇中では結局テロと国境上の出来事は無関係だったとされ、作戦は中止されるのだが、そこに至るまでのマットたちの秘密工作の過程がスリリング。
マフィア同士の争いだと見せるための偽装工作の殺人、容疑者の家族も犠牲にする容赦ない尋問、麻薬王の娘の偽装誘拐…。
911テロ以降、テロは絶対に許さない姿勢を貫くタカ派の国防長官の発言もあり、アメリカなら「やりかねない」という説得力がある。

麻薬戦争では老若男女問わず、あらゆる人間が巻き込まれて犠牲になっているのは前作で良く分かった。
本作も手堅い出来だが、前作と比べると衝撃的な描写は足りないと感じるのは、本作ではイザベラ、ミゲルという少年少女がストーリー上、運よく生き延びるためだろう。

彼らにもっと過酷な運命を与えた方が、衝撃度は上がったのではないかとも思うが、これは観客に極度のショックを与えない配慮だと思われる。
しかし、それが麻薬を蔓延させた大人への反省を促し、死線を潜り抜けて生き残ることで「自分たちはもう二度とこんなことはしない」と未来への希望になっているのが良い。

作戦中止によって、後半、メキシコに取り残されたアレハンドロとイザベラは国境を目指して彷徨い、助けを求めた聾夫婦の家でイザベラはアレハンドロの優しさを知り、擬似親子のような関係になる。
父親世代の麻薬ビジネスがアレハンドロの家庭を引き裂いたことを娘が反省し、彼女が未来を変えるだろうという「希望」がある。

密入国で国境を超えた2人をカルテルの下っ端が狙う。
そこでアレハンドロを殺せと命令されたのがミゲル。
ワルへの通過儀礼をせよと煽られ、年端のいかぬ少年が銃でアレハンドロを撃つのは衝撃的だ。
アレハンドロが死んだと思ったマットは、イザベラを連れ去ったカルテルのギャングたちを急襲。
武装を解除させて無抵抗になったギャングたちを平然と射殺し、命令無視の復讐を遂げる。
信頼するアレハンドロを失った(と思い込んだ)イザベラの廃人のような表情。
刻み込まれたトラウマに、彼女は2度と麻薬ビジネスの世界には現れないだろう。

少女ではあるが、麻薬王の娘イザベラという「運命の女」に振り回されたアレハンドロ。
友アレハンドロの復讐を冷酷に遂げるマットには「男と男の世界」が匂う。
そこがハードボイルドな「フィルム・ノワール」の余韻を残す。

しかし、アレハンドロは頬を撃ち抜かれただけで奇跡的に生きていた。
エピローグでは刺青を入れてイキがる少年ミゲルに「将来のことを話そう」と静かに諭す。
アレハンドロは「自分のように負の連鎖の中で生きたいのか?」諭したに違いない。
若者の暴走への抑止もまた、犠牲者が減る未来への希望に繋がっている。

もちろん前作を見た方が、アレハンドロが撃たれた時のマットの怒りが良く分かるが、前作を見ていなくても単品としてしっかり成立している。
前作より衝撃や善悪の葛藤は少ないが、ただひたすら非情な「男の世界」が展開される。
この世の地獄に憤りを覚える前作も凄まじいが、僅かな希望を感じられる本作もまた、高く評価したい。
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