をん

万引き家族のをんのネタバレレビュー・内容・結末

万引き家族(2018年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

遅ればせながらやっと観ることができました。
もっと早く観られていたら、といつ観ても思うであろう秀作でした。

ラストシーンは起承転転転……収束。
りんと祥太の未来予想図が明確に描かれることはありませんでした。特にりんの今後について。最後にりんが覗き見たものはなんだったのか、この子はどうなってしまうのか。
しかしこの胸にざらりと何か残る終り方こそがこの映画の醍醐味であり、作品の云わんとすることに考えを巡らせるための仕掛けだったのだと、時間が経てば経つほど考えさせられています。
遠く離れて触れることのできない我が子を憂慮するかのようなこの気持ちは、育ての親の信代であり治であり、自分は偽りの七人目の家族として迎え入れられているのではないかとさえ思いました。

自分の違和感をきちんと疑問として言葉にし、外部の人の声に耳を傾け、行くべき道を選択した祥太。
一方、幼さもあり、周りの大人の一概的な正しさに押し流されてしまったりんの意思と気持ち。
兄妹の各々の覚悟と勇気に胸がきゅっと締め付けられました。
家族解体の後、歯を見せて笑うことができたり環境や他人に麻痺され囚われることなく自由に考えたりできるようになった祥太と、口を一文字にし表情が動かなくなり、気持ちを押し殺すように戻ってしまったりん。
この対比が辛かった。

祥太の思慮深さとバランス感覚はいつどこで身に付いていったのか。
初枝のボロ家屋の押し入れで読んだスイミーを始めとするたくさんの本、直接的ではなくとも【外の世界】ときちんと繋がったことが救いであったと思います。
駄菓子屋店主のたった一言から厳しさと優しさを受け取り懐疑することが出来たのも、危うさを孕みながらも彼がきちんと成熟していたことを物語っていると感じました。

見えない花火を見上げて縁の下に6人並んだ家族の姿を上から映したシーンには、思わず熱いものが込み上げてきました。
社会からはみ出した者達が身を寄せあってただ幸せそうに、しかしちっぽけに映されたワンシーン。客観的に見れば家族でないかもしれない。
けれど私個人の視点からはきちんと「家族」でした。賛否両論あるかとは思いますが、祥太が勇気ある決断ができたのも、ラストシーンのバス内で治からの声かけに振り向かない勇気が持てたのも、きちんと抱きしめられて愛を受けて育ったからこそではないかと感じました。
別れ際に「わざと捕まった」と治に一瞥もせずにしかししっかりと伝えた真っ直ぐな強さ誠実さ、彼はもう大丈夫だと思わされました。

物語全体としては視覚的に把握する親子の関係性とそれに「ママ」等家族内の呼び名がつくことが多く描かれたことも、強く印象に残っています。
父母と呼ばれたかった治と信代、父母と呼ぶことのなかった子供達。亜紀の親子関係についても。
女性警察官から信代に対する「何と呼ばれていましたか?お母さん?ママ?」「産めないから嫉妬したんでしょう」という問いかけがとても残酷で息苦しくなりました。

マジョリティーの常識では割りきれないこの物語、勧善懲悪とはいかない話、
考えさせられることが多かったのですが、
「万引き家族」で検索しかけたときに「気持ち悪い」と予測変換が表れ、やはり受け入れられない層もいることを感じ、これが社会だと感じました。
観られてよかった。
をん

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