けーはち

万引き家族のけーはちのレビュー・感想・評価

万引き家族(2018年製作の映画)
4.2
「横乳見せるニット=童貞を殺す服」は間違った説です、是枝監督‼

冒頭で言っておきたかった。そんな魂の叫びはさておき。

カンヌでパルム・ドールに輝いた本作。貧困疑似家族の絆を描いたクライム劇。非正規雇用の夫婦(リリー・フランキー、安藤サクラ)が老母(樹木希林)の年金に頼りつつ子どもを育てるため生計の一部を万引きに頼り、子どもに手伝わせる。そんな中で、彼らはとある家のベランダで泣く被虐待児の幼女を拾うことに。

そう書くと、まるで浪花節の苦労談的な、「泣ける😭」話かと思いきや、そうは問屋がおろさない。一方にガツ~ンと感情を寄せず、二律背反的で重層複合的な問いを投げかけてゆさぶる作品。

掲題の「万引き」ひとつとっても、劇中ではやむを得ない「悪」という理解では足りなくて(当然、社会的には犯罪だが)、その直後に褒美、おやつとしてコロッケを買う描写があって、「今、彼は本当に文無しなんじゃなく、よかれと思って子どもにやらせてるんだ」と垣間見える。事実「俺に教えられるのはこれぐらいで~」といった旨を言うシーンもある。学校に行かせてもらえない子どもには、万引きは仕事であり家庭内教育でもある。店に並んでいるものは誰のものでもないと教えられ、それが悪だとは理解していない(と信じていたかっただけで、隠れて万引きする行為の、後ろめたさには勘付いていたとは思うが)。

だが、盗みは本来、法で裁かれることと関係なく他人のものを無断で奪うから悪であり、それを子どもが決定的に気付かされる出来事が、劇中で描かれる(夫婦にはもっと重大な犯罪行為もあってそれに大きな意味はあるが、本筋ではない)。そこに本当の「家族の絆」はあったのか、或いはそれ以外の、何かだったのか?──一家が辿る結果はビターではあるが、せめて子どもにとってはハッピーエンドなのかな~、と思う。もうひとりの被虐待児の娘に関しては、グレーなのだけど……。

家族の絆や性愛の倫理観についてもアンビバレントに描いていて、老母が亡夫の後妻の家にお金をせびる描写(きっと夫の浮気による離婚の慰謝料)があったり、娘がコスプレ風俗で障害のある客と身を寄せ合って絆を築く描写があるなど、やはり明暗両方向にゆさぶってくる。

そしてその微妙なニュアンスを表現しきる役者が良い。サイコパスから良心オヤジまで何でも演じられるリリー・フランキーに輪をかけて安藤サクラは適役。樹木希林は本当に優しそうで食えない(入れ歯がないという意味でも)婆さんであるし、松岡茉優は本当にセクシーさと屈託の無さが同居した良い娘を演っている。子役もいい。

細野晴臣のアンビエントな劇伴音楽も良くて、特にピアノの音色なのに本来ありえないピッチベンド(鳴ってる最中に音程が変化する)という表現がされていて何かやり場のない不穏さを誘う。また、演出としても万引きをやる前に家族だけで通じる「おまじない」のようなサインがあって、それも非言語的なメッセージがあって映画表現としても印象的。分かりやすいのに、複雑な感情を刺激する、不思議な映画になっている。