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万引き家族のmaiのレビュー・感想・評価

万引き家族(2018年製作の映画)
3.6
全てが、最後痛烈な皮肉になって返ってくる…暗に示すというところが邦画らしくって好きでした。

血縁関係のない赤の他人同士が、家族として一緒になって過ごしていきますが、彼らの生活を支えるのは家の主人である初枝の年金と、雀の涙ほどであろう給料、そして父と息子による万引きで得た品物でした。

側から見れば「可哀想な家族」なのですが、不思議と彼らにネガティブな要素は見つからなくて、口が悪いながらも笑い合いながら暮らしていて、優しさで満ちているんです。
でも、そんな優しさだけでは許してくれないのが社会であり、初枝の死はなかったことにしなければ生きていけないし、息子が万引きで捕まったならば夜逃げしないといけない。
ここで一番フォーカスされるのが子供であるショウタとユリですが、「他人に迷惑をかけていない」を正義に万引きを働いていたショウタは「妹にはさせてはいけない」という駄菓子屋の言葉や、治が他人の車の窓ガラスを割って物を盗む姿に少しずつ違和感を覚えていきます。自分がやってることは許されることなのか?その思いが、あえて万引きで捕まるという行為に走らせたのかもしれません。彼の動機が、万引きを働く妹の姿を見たからというのも納得です。そうやって、彼は少しずつ「家の外」の事柄を知っていくのでしょう…。
そして、最後の表情が印象的だったユリ。彼女の今後が思いやられます…ユリにとっては幸せだっただろう暮らしは奪われ、「母親の元に戻りたいでしょ?」という大人たちによって、元の地獄の生活へと引き戻されます。でも、一度「家の外」を知ったユリは、この現状が正しくはないことを知ってるんですね…良くも悪くも、家族の温かさを知った彼女が、これからどんな思いで生きていくのかを考えさせられてしまいます。

痛烈な皮肉になってるのはタイトルの「万引き家族」な気がします。
偶然にも、現実世界でも万引きを常習的に行う家族が捕まりましたが、その時も、彼らの事情は一切伝えられず「悪いことをした」ということが報道されました。
私たちは彼らの表面上だけを見て「万引き家族」だと揶揄するのです。
そこに「優しさを一番に否定する社会」が垣間見得てるような気がしました。
この映画で一番しみるのは「家族でもない相手への優しさ」ですが、ラストでは「そんな優しさあるはずない」と気にもとめてくれません。
たしかに彼らがやったのはどれも悪いことですが、強いていうならば、他人にはさして迷惑をかけていない軽犯罪です(もちろん、窓ガラスを割って…というのはいけないですが)。だからこそ、その軽さが、彼らを万引きや誘拐(というか、ある種の保護)、死体遺棄へと向かわせてしまうのでしょう。どれも、他人の迷惑にはなっていないし、治も信代も「いけないことだ」という倫理観はちゃんと持っています。でも、彼ら2人なら生活できても、彼らの家族である4人を養うには致し方ないことばかりです…ここに、優しさや慈悲だけでは生きていけない現実が感じられます。

警察は、治と信代を「悪だ」と決めて話を進めていきますが、彼らは警察のいう正論なんて百も承知なのです…でも、警察がいうようなエゴばかりでの行動では決してありませんでした。ただでさえ苦しい生活の中、ユリを引き取った理由…そこには、一切触れずに「子供が欲しかったんでしょ?」とあれやこれやと妄想して話を進める警察に治も信代も現実を突きつけられていくのです。それは、彼らが見ないように見ないようにとしてきたものでした。

彼ら5人にはこの後の生活が続いていて、信代がいうような「5年いてもお釣りがくるような、幸せな生活」をもう一度体験できることはないでしょう。見つからないだけでも奇跡だった、優しさや温かさであふれていた生活…それで誰かが困ってたわけでもない、それのどこがあんなにも重い罪になってしまうのでしょうか。
そして、ユリに待ち受けているであろう辛い生活はどう受け止めるべきなのでしょうか。

貧困を起点にした、家族・虐待・ネグレクト…などなど現代社会の問題をぎゅっと詰め込んだ作品で、その若干のあざとさはありますが、キャラクター達に多くは語らせず、淡々と話が進んでいくのはさすが邦画だなと思いました。全て「察しろ」の文化…好きです。
そして、6人それぞれに体現するテーマが設けられているのもこの映画の奥深さを増させる要因だと思いました。
治、信代、初枝、ショウタ、ユリ、アキ…家族に飢えていたという点では共通していますが、彼らのバックグラウンドや思いはそれぞれに異なっていて、その6人にテーマを詰め込めているのはすごいなと思いました。
俳優陣は、端役にいたるまで言わずもがな豪華ですし。

どこまで掘り下げて考察するかは各々の勝手で、家族の形を問うた作品か、貧困を問題提起する作品か…どちらに重きを置いてみるかで、感じ方・見方も変わってくると思いました。

感動作!と言われると、どうしても手を出しづらいのですが、感動作というよりかは、考えさせられる作品で、一度は見てほしい作品だなぁと思いました。
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