持て余す

万引き家族の持て余すのレビュー・感想・評価

万引き家族(2018年製作の映画)
4.4
パルムドール受賞後に文部科学大臣からの祝意を辞退したことで、少しめんどくさい注目を浴びていたのは記憶に新しい。

創作姿勢からして権力者から褒められるのはバランスが悪いので、別に不思議もなにもなかったけれど、国の偉い人同様であまり創作物を見たり読んだりしないネトウヨ勢が噛み付いた格好だった。

曰く「国の補助金を貰っていながら国家権力とは距離を置くとはダブスタ」だとか、「万引きを肯定的に描くなど、された側のことを考えろ」だの、「日本を露悪的に描いて世界に晒すなど反日だ」とか、実際に映画を見れば的外れでしかないことが解る。

この映画の話題がTwitterという悪口製造機でホットだった頃には、漠然としか内容を知らなかったからなんとも言えないところもあったけれど、鑑賞後は「やっぱり見ないで批判してたんだろうなー」という気持ちで誠に遺憾。

あの擬似家族は貧乏だし、幾つもの犯罪を犯しているし、倫理的に問題のあるところが多いし、年少者である祥太やりんを除けば自分たちの生活が褒められたものでないことを自覚してもいる。だから、日陰者としてこそこそ生きている。ただ、その上で破綻するまでの彼らはとても幸せそうに見えた。

言うまでもなく、まともに働いて誰に恥じることない生活を送り、かつ幸せならばそれに越したことはない。そうした幸せの中にいる人や家族も多くいることだと思う。ただ、そこからはみ出る人はいるし、そうした人が不幸せでなければならないことはない。

そうした「清く、正しく、美しく」の宝塚的潔癖は、現実問題としてなかなかそうもいかないから尊いものとして扱われるのであって、そうでなければ落伍者扱いということになると、甚だ全体主義の香りが漂うし、軍靴の音が聞こえてくるのも待ったなしに感じる。

犯罪行為は償わなければならないけれど、そうでない限りはあの家族のように弱い共同体でさえ救っていけるのが、美しい国だと思うのですけどね。どうせ綺麗事なら弱きを助ける方でありたいと思うわけです。

だから、破綻してからのところはなかなかツラかった。

特に機械のように正しいお作法を説く女性刑事の言葉に目眩がするほど憤りを感じた。悪いのは治を筆頭に柴田家の大人たちに決まっているのだけど、どうしてそんな言い方をする必要があるのかと。ほんの短いシーンなのにとても印象が強い。池脇千鶴がうまいんだな。

受賞とか変に揉めたのが邪魔なくらいいい映画だよ。
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