NightCinema

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドのNightCinemaのレビュー・感想・評価

4.5
エマニュエル・セニエは、「ポランスキー自身の不幸な体験を、彼に何の相談もなく映画にして金儲けをしているハリウッドが信じられない」とタランティーノを批判したそう。

ましてや自分の家族ならそれも当然だし、誰かの苦痛と創作は相容れない所があるのが難しい。でも見方を変えると、この映画はお金儲けというよりも「復讐劇」なのでは…?

犯罪者への制裁を現実には実行できないから、映像の中で実行する。暴力とともに掲げられたヒッピーの”大志”を、皮肉をもってけちょんけちょんにする。この映画にはそれが感じられて面白いし、思わず拍手を送りたくなる。

(*ここからネタバレ)

リックは世間的に名の知れた俳優で、西部劇を演じ続ける。クリフは名も知れぬスタントマンだが、実生活は西部劇のような日々を送っている。

リックはスターだが人間臭い悩みも抱えており、手堅く生きる様は一般人そのものだ。一方クリフは、スターでもないのにやっていることは破天荒かつヒーロー的であり、完全にスター寄りの人間。

リックが立派なセットの中で監督に認められるため必死に演じながら「虚像」作りに邁進する間、クリフはヒッピーに集られた弱者に会って悪い奴ぶん殴って、馬乗りカウボーイから逃げて…という「実像」(リアルガチ西部劇)をやっている。

こうしたリックとクリフの逆転現象は「何が本質か」を考えさせられるもので、シュールな対比がとても面白かった。

また面白かったのは、度々現れる登場人物の「足の裏」。シャロンの足裏が黒いのは追悼? プッシーキャットは黄色く、奇抜な思想を表しているのだろうか。リックは真っ白で、本質があまり分かってない(虚像)という感じ。

クリフと犬のお食事タイムのシーンには、皮肉がたっぷりと込められている印象だ。ドックフードはお世辞にも美味しそうとは言えず、缶から落ちる度に脱糞を想像させる。それをたらふく食べ続けた犬は、ヒッピーをやっつける。犯罪者は糞尿以下という皮肉か。

リック(虚像)とクリフ(実像)の対比を前半に長く見せることで、ラストに起きる大事件が隣家にすり替わったことも自然に感じられ、ポランスキー家で何事もなかったかのように始まろうとしている宴会の虚像も受け入れてしまえる構造になっている。

ヒッピーはクリフ(実像)にナイフを刺したが、クリフはラリって理解が出来ない。しかも、ヒッピーからもらった薬でラリって痛みが理解出来ない。

これは、カルト集団の掲げていた”大志”が実像を歪めるものでしかなく、そんなものは相手をどう暴力的に追い詰めようと洗脳しようと、本質に届きはしないという比喩のようだ。
シャロンテートは物理的にナイフを刺されはしたが、犯罪者は彼女自身にもハリウッドにも、何ら影響を与えることは出来なかったのだと暗に示しているようでもあった。

影響を与えることを許してはいけない。ユニークさの中に、「精神は守られた」的な真髄を感じる不思議な映画。
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