NightCinema

夜明けのすべてのNightCinemaのネタバレレビュー・内容・結末

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

「あれ、でも持病なかったよね?」と言われてしまうPMSと、電車に乗ることも難しくなるパニック障害。藤沢と山添は、自力ではコントロールできない爆弾を抱えながら、ただただ発作に翻弄される日々を送っている。

それまで真っ暗な夜を一人ぼっちで過ごしてきた二人が、お互いが抱えているものを知り、自分もままならない中で相手を助けようと、ご飯を差し入れて外に連れ出し、忘れ物を届けたりお守りを渡したりするようになる。

二人の関係は恋愛ではなく、友達とも少し違う。それを言葉で定義するのは難しいが、二人が一緒に過ごす夜はもう真っ暗ではなかった。会社の小さな蛍光灯の下で、人間など比べものにならないほど大きな「天体」という存在に思いを馳せ、あれほど普遍的だと信じていた星々も、抗えない変化の中を輝いているのだと知る。

二人の周りにはまた、大切な家族を亡くした人達がいた。遺された彼らもまた、その変化を受け入れられないまま何年、何十年とその思いを抱え続けている。それは発作もなければ、発散もない。喪失の痛みもまた、明けることのない夜のようだ。

そんな彼らのままならない日常が、素朴な会話や切りすぎた髪、差し入れられる和菓子や暖かな日差しとともに描かれ、受け入れること、諦めること、許すことが夜を明けさせるのかもしれないと気づかされる。人が人に支えられて、じんわりと変化していく。派手さはないが、とても心に残る映画。

出ている俳優さん達がいい。主役の二人もとにかく良い。萌音ちゃんは、毎回とてつもない罪悪感を感じてるしすごく良い子だけど空回りな藤沢を見事に作り出していて、会議室で爆睡する所も深刻だけど可愛くて全部ホルモンがいけないよねって思わされるし、松村北斗くんはもう、山添っていう人物の素朴さそのものですよね。クリーム嫌いなんで、ってパンを突き返す所とか、上司にかける「ありがとうございます」という言葉、会話のすべてが自然。髪切ったあたりから氷が溶け出すように変化していく過程も秀逸。光石研さんは何かもう、そこにいるだけで温かいし。

色々抱えても、夜明けを待とうと思える映画です。
NightCinema

NightCinema