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PERFECT DAYSのNightCinemaのネタバレレビュー・内容・結末

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

こんな渋くて素敵な清掃員さんいたら二度見しちゃうよね、と思いながら鑑賞。現代の東京の公衆トイレ事情も知ることができる。

大きな事件もない「平山」という男の人生の何日かを切り取っただけの、それでいてまさに木漏れ日のようにさらさらと心に残る映画。自由に生きているようで、本当は人は抗えない運命の中を生かされているのだとも伝わってきます。フランス映画っぽいけど、ヴィム・ヴェンダース監督はドイツ人なんですね。

平山は毎朝、近所のおばさんが道路を掃く音で目覚める。始まりを知らせてくれる、ザッ、ザッという音。エンドクレジットのキャストの所、このおばさん役の方がトップにいた気がして勝手に粋さを感じたけど、勘違いかも。

この映画を見はじめて驚いたのは、最初の20分ぐらい平山がまったく言葉を発しないことだった。黙々と掃除をし、時々木漏れ日に微笑み、銭湯に着いて入口にいる人にやっと「こんにちは」と小さく言ったのが最初だった気がする。

柄本時生演じるタカシは、とても大事な役どころ。まだ仄暗い朝に起きて植物に水をやり、缶コーヒーを飲みながら懐メロを聴いて運転し、公衆トイレを美しく磨いた後、銭湯で汗を流し、馴染みの店で一杯。そんなルーティンを静かに生きたい平山の懐にいつの間にか入り込み、おかまいなくペースを狂わせていく。

またアヤ(タカシの好きな子)、ニコ(姪)、ママという3人の女性によって、何にも乱されないように見えた平山が実は女に弱いという人間臭さが垣間見える。

女といえば、長井短が演じるOLの「何かしら言いたげ」な空気感も良い味を出してたけど、主役を凌駕するインパクトだったのが古本屋の女店長。平山が買う本に対して、聞いてないのに「幸田文は◯◯よね。◯◯な所がナントカだと思うわ。」とか感想をくれるんだけど、画家が作品の中にさりげなく自画像を盛り込むのと一緒で、この店長の女性は平山と会話がしたかったヴィム・ヴェンダース自身の比喩みたいな存在なんじゃないかなと感じる。

ニコを迎えに来た妹とのシーンは、過去に平山に何があったのかが詳細に明かされないけど、多分その描写があったらそこがこの映画のメインになってしまったんじゃないかと思う。

それにしても、三浦友和(友山?)がなぜ飲み屋から平山の所に来れたのか? 平山が常連(でしかもママの好みの相手)だとなぜ分かったんだろうというのが不思議。ママと友山が抱き合ってた時に平山はすぐ去ったから、友山は平山の姿を見てない気がするんだけど。(友山、平山ってややこしいな)

でもそういう、ありそうで現実にはない状況を、影踏みとともに描いている所がまた幻想的だった。

もうすぐ命をなくそうとしている友山と影踏みをした後、平山はひとり運転しながらニーナ・シモンの『Feeling Good』を聴く。最高の人生を噛みしめているようで、死について思いを馳せているのか。悦びなのか、哀しみなのか。そんな絶妙な表情を長回しで見せるシーンが印象的だ。

木漏れ日は一瞬で、二度と同じ光はない。平山の日常からその儚さを感じて、自分もこんな風に時を重ねようと思える映画だった。
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