しじみ

生きてるだけで、愛。のしじみのレビュー・感想・評価

生きてるだけで、愛。(2018年製作の映画)
4.5
エモいとは何か、その曖昧な言葉の必要性が、私にはよく分からない。寧子や津奈木に共感した人達に、聞いて欲しいことがあるのでここに書く。

母と義父のことを思いながら観た。義父は、とんでもない母のことを、躁鬱気質の母のことを、15年以上変わらず愛し続けている。
母が鬱の時は淡々と仕事と家事をこなしながら、あり得ない量の映画を観て、たまに鬱状態の母本人に文句を言っている。
けれどそんな母に少しでも躁の兆候が現れると、自分の行きたい場所へ母を連れ出し、助手席で眠るブサイクな母の寝顔を撮り、旅先でツーショットを撮り、完全に躁になるまで、2人で一緒にひたすらに様々な映画を観ている。

義父には母の気持ちは全く理解出来ないらしい。でも母のことは、この世で一番純粋で、無垢で、心底面白くて、どうしても守らなくてはならないものだと感じるらしい。母が生きていてくれるだけで、頑張れると言う。

愛とはこんなにも単純で明瞭である。義父はそれを、いつも変わりなく教えてくれる。
分かり合えないことは、愛を失うほどのことではない。そんなことは、2人の明日を決める要素に過ぎない。

この映画は決して曖昧な言葉で表すような物ではなく、己の心と向き合い続ける人々の葛藤を描いた、ハッキリとした物語であると思う。それと同時に、そのことがよく分からない人がこの世に多く居ることを、私は幸せなことだと感じる。
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