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逃亡者のnetfilmsのレビュー・感想・評価

逃亡者(1990年製作の映画)
3.7
 女弁護士から拳銃を奪い、脱獄した凶悪犯(ミッキー・ローク)が、逃亡の途中で郊外の売り物件に立て篭り、愛人だった女弁護士の到着を待つ。ウィリアム・ワイラー監督の『必死の逃亡者』のリメイクでもある本作は原題こそ『Desperate Hours』だが、逃亡者というよりは籠城者の方がしっくり来る。物語は凶悪犯の法廷のシーンから始まり、女弁護士が太股に隠した拳銃を奪って逃げるのだが、逃亡シーンはほぼこの場面だけで、あとはひたすら籠城している。またオリジナルではこの凶悪犯は庭に放り出された三輪車を見て、明らかに温かい家族を崩壊させるイメージを持って押し入るのだが、どういうわけかチミノはその設定をギクシャクした家庭に改変してしまっている。ベトナム帰りの帰還兵であるアンソニー・ホプキンス扮する旦那と、ミミ・ロジャース扮する妻には既に何らかの不和が生じており、娘はそんな両親と顔を合わせるのを嫌うという描写がある。オリジナル版では家庭を持たなかったハンフリー・ボガードによる押し入りと籠城に対して家族の結束がある種の明確な対立構造を生んでいた。おまけに男勝りのFBI捜査官であるリンゼイ・クロースの描き方も不十分としか言いようがない。ミッキー・ロークを追う動機、組織での立ち位置、男勝りの性格の描写、どれも十分に達しないまま、事件に応対させている印象しかない。

 活劇と作劇の分量もこれで良かったのか疑問の余地が残る。法廷シーンと逃亡シーンに使用した時間や、FBI側の捜査の描写に対して使った時間はほとんどなく、ただひたすら中盤のアンソニー・ホプキンス宅の籠城シーンが間延びしている。もう少しデヴィッド・モース扮するアルバートの逃亡までの時間は短くても良かった。またミッキー・ロークではなく、あくまで小物なデヴィッド・モースの逃亡の描写にそこまで熱を入れる必要があったのかと思うくらいの緻密な描写がいかにもチミノらしい。西部劇さながらのカー・チェイスに始まり、赤土に乗り上げて身動き取れなくなってから、女子大生のトラックに同乗しようとし、挙げ句の果てに警察に通報され、岩地を彷徨い、最後には拳銃を持ったまま河で孤立する。馬の隊列の間から血だらけのデヴィッド・モースが出て来たことところを狙撃手が投射機で狙いを定める。この無駄に力の入ったショット群から狙撃の瞬間までを、チミノは本編の中で最も過剰な熱量を持って描く。クライマックスの銃撃シーンよりもこちらの方が凄いほど。これは明らかに監督の設計ミスなんじゃないかと思う。クライマックス手前で、娘の彼氏が警察の非常線を突破する場面があるのだが、あれは事実上不可能であろうし、俯瞰ショットがないまま突破させてもあまり意味がない。
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