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愛しのアイリーンのtouchのレビュー・感想・評価

愛しのアイリーン(2018年製作の映画)
3.9
"心まで売るか?"
* * *
「うわぁ…最悪だ…」
思わずそう呟いてしまうほどに、下衆で醜悪で愛おしく、どこまでも人間臭い映画だった。
田舎のムラ社会特有のプライバシー・デリカシーの無さ
うんざりするほどの閉塞感を、これでもかと見せつけてくる。
流石は吉田恵輔監督。
人間の底意地の悪さ、凄惨さを描かせたら天下一品である。
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開始数秒で老人の白ブリーフが大写しに。
そこからはもう、呆れるようなド下ネタで畳み掛けてくる。
生理的嫌悪感ギリギリの線を、ギア全開の性衝動で駆け抜ける。
車に撥ねられながらも「××××〜!」と叫び、助手席で眠る婦女子に発情する安田顕は気色悪くもあり滑稽でもあり、凄まじい怪演だった。
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鬱屈したリビドーとフラストレーションの決壊によって露わになる無神経さ・粗暴さ・支配欲。
金と性欲、盲愛と暴力によって歪んだ関係性。
悲惨なのにどこか可笑しいというアンビバレンスな様相に、大きく感情が揺さぶられる。
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告別式の鯨幕に浮きまくる蛍光色のリラックスウェアの二人
ガラス障子から息子の××××を見守る母親
怒鳴り合う二人の間でおずおずと×××を履き直す婦女子
奇天烈な状況を一枚画に収めることで、居心地の悪い気疎さと不謹慎でオフビートな笑いの入り混じった絶妙な空気感を生み出しているのだと気づく。
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幸せを願うアイリーンの想いと
愛を育もうと捥く不器用な岩男の想い
二人の打算的な理想がボタンを掛け違えてすれ違い、虚しく空回っていく。
この"立ち行かなさ"がどんどんエスカレートして人間関係を荒ませていく感じは、まさしく吉田恵輔作品の真骨頂。
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「結局、愛ってなんだ…」と自問自答の五里霧中、ホワイトアウト状態に放り出される結末。
遣る瀬ない寂寥感にしんみりと浸る中で流れるエンドロール。
奇妙礼太郎による楽曲の哀愁もひとしお。
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万人にオススメできる作品ではありませんが、
日本社会に未だ陰を落とす差別的な価値観、後ろ暗さを描いたノワール・コメディとして、予定調和な風潮の邦画界の枠を強烈にはみ出すスンバラシイ一本でした。
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朝日新聞のロゴを大写しからの
「オイ! 朝刊が無ェど!」
まぁ笑うわな。
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