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愛しのアイリーンのペジオのレビュー・感想・評価

愛しのアイリーン(2018年製作の映画)
4.7
双方向の愛など無い 唯一の例外がこの映画と原作、及びファンの関係である

ここ最近の新井英樹作品の映像化の勢いは何なのだろう?(「ディストラクション・ベイビーズ」もヒグマドンの出ない「ザ・ワールド・イズ・マイン」みたいなもんだ。)
「映画を撮りたくて漫画家になった」と嘯く新井英樹の漫画は構図、コマ割り等々非常に映画的ではあるのだが、題材や描写の強烈さで製作に二の足を踏むのはわからなくはない(故に刺さる人には深く刺さるのだが。ただ描写力や台詞の力もさることながら、個人的にこの人がバケモンなのは「構成力」だと思っている。)
「単純な流行り」や「時代の空気と呼応した結果」ではないのは明らかだ(信者と呼ばれても差し支えないファンだが、「新井作品が流行る様な世の中は多分間違っている」と正直思う。愛してるけど。)
おそらくは氏の作品に影響を受けた監督たちが業界内で発言力をもち「自身の念願の企画」として送り出してくれた結果なのだろう(正に吉田恵輔監督にとっては本作がそうだったらしい。)
それは実に歓迎すべき事実だ
作り手の熱意が伴うし、それ故に人気や見た目で選ぶような安易なキャスティングとは無縁になるから
それだけでも既に原作ファンとしては幸福を感じずにはいられない(ジャニーズやアイドルで埋め尽くされた結果、愛の無い改変をされる漫画映画の原作ファンの方々はまことにお気の毒だと思う。)

安田顕や木野花は原作とは見た目は違えどキャラクターの本質を掴んだ鬼気迫る芝居が素晴らしかった
ナッツ・シトイの愛らしさ(及び割りと辛辣な現実認識)は原作から飛び出したかの様
吉岡愛子、真嶋琴美、マリーン、斉藤、正宗…みんな良かった
個人的には理想に裏切られてもどこかでまだ理想を求める女衒の塩崎を演じる伊勢谷友介の匂い立つ様な体現っぷりが好き(ちなみに原作では同性愛者である。しっかり掘られるシーンもある。)

今村昌平をこよなく愛する新井英樹版「道」である(「この俺に……見せろ。今すぐ!! その映画を……」)
「愛」とはつまるところ、どこまでも一方通行で自己満足でしかないのだ(オナニーシーンに意味があるのだよ!意味が‼)
「通じ会える」とか「絆」なんていう薄汚い綺麗事はここには無い(「みんな、ひとり!」なんだよ!)
人の醜さをそのまま描き、そのままの姿を愛する人間讃歌なのだコレは
真のヒューマニズムのみがここにはある

最高峰として新井英樹の漫画がそびえ立っているのに変わりはない
それでもここまでのものに仕上げてくれた吉田恵輔監督には感謝している

…さて、「宮本から君へ」の映画も控えている
「次」…があるとすればどれだろう?
敢えて一番エンタメよりの「SUGAR」なんて良いんじゃないか?
ああ…でも「キーチ!」も観てみたい(何とかして若返れ柳楽優弥!)
「ザ・ワールド・イズ・マイン」は…クッソ金かかるよな~誰も撮れる人いないだろうし(本人も言ってたが良い時期のポン・ジュノが適役だろうか。もういっそのこと新井本人に撮らせるのが一番良いかもしれない。誰か英断してくれ偉い人。)

あ~観てみてぇ…
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