Jeffrey

荷馬車のJeffreyのレビュー・感想・評価

荷馬車(1961年製作の映画)
3.8
「荷馬車」

〜最初に一言、大傑作。韓国映画が史上初めて外国の映画賞(ベルリン国際映画祭銀熊賞)を受賞した傑作で、今年観た「達磨はなぜ東へ行ったのか」と同様に素晴らしかった。正に家族愛とメロドラマを描いたデジンの誇る韓国映画だ〜

本作はカン・デジン監督の一九六一年の韓国映画で、長年VHSを探していたがら大分のショップで漸く同監督の「朴さん」と共に見つけ購入して初鑑賞したが良かった。本作は第十一回ベルリン国際映画祭で、韓国で初めて国際的な大賞を受賞し、ゴールデンベア賞にノミネートされ、シルバーベア臨時審査委員会賞を受賞した白黒映画である。六十年代韓国映画の“お父さん役”の代名詞的存在とされてきたキム・スンホが人間味たっぷりに、愛嬌者として、愛と希望に満ちたハッピーエンド好きなら堪らない爽やかな感動を呼ぶファミリー・メロドラマに出演している。カン・テジンはシン・サンオク監督の助監督を三年間務めた事は韓国映画通には有名な話で、一九五九年に「父伝子伝」で監督デビューしており、庶民派メロドラマの名匠として知られる存在となる。

代表作には他に先程購入したと言った「朴さん」や今回は見つけられなかった「青春劇場」などがある。主演のキム・スンホは、当時別な俳優が声を吹き替えるのが一般的だった韓国映画界では自分の声にこだわり、自分の役を自ら吹替える数少ない有名俳優だったとか…。さて、物語は男手ひとつで四人の子供を育てあげたチュンサムは司法試験を目指す長男が自慢の種だ。馬車引きの社長は嫌なやつだが、その家政婦は何かとチュンサムを贔屓にしてくれる。ある日、チュンサムは事故に遭い、馬が引けなくなってしまう…と簡単に説明するとこんな感じで、男手ひとつで子供たちを育ててきた馬車引きと家族の絆を描き、見事にベルリン映画祭銀熊賞を受賞した傑作で、韓国の月刊朝鮮で韓国映画史上のベスト五位、朝鮮日報で十位にランクされ、同時に歴代最高の男優に選出されたキム・スンホ主演の名作として有名だ。男やもめの馬車引き一家を描くリアリズム映画、撮影当時のソウルの風景が興味をそそる。


冒頭の馬車の車輪が回るファースト・ショットで始まるのだが、その後にソウルのまだ韓国が経済発展していないスラム街のような街並みを逃げる男性を追う男のセカンド・ショットは魅力的である。キム・ギヨンばかり日本ではフォーカスされがちだが、こういった全然名の知られていない(自分だけかな?)監督の作品こそ素晴らしいものが多くあると感じる。とりわけ家政婦と旦那のデートややりとりが可愛らしい。スンホのふくよかな体型と微笑ましい笑顔が安心できる男性像を象徴していて、あのマフラーと帽子と口ヒゲでモンゴル人僕も見えるし、北の将軍様っぽく見えてしまうのが少しばかり複雑な思いである。てか、劇中のセリフで〇〇でしたの"でした"って日本語使ってたけど、やっぱり韓国語のところどころ日本語でしか言えない言語があるんだな。

この映画を観ると徴用後問題と慰安婦の話に結びつけるつもりは毛頭ないが、この映画を見るだけでも、韓国社会のイニシアチブを持っている側の人間が決めたことに弱者が逆らうことができないんだなと思わされて、やったやらなかった問題が今の日韓関係にあるのを踏まえてみると、韓国社会は本当に生きづらそうだなと感じてしまう。この馬引きの家の子は所詮馬引きの子って台詞とか、慰安婦の女性は所詮売春婦だと言う流れがあちらの国で起きてるように、なんだか重なってしまった。誠に生きるのに辛い時代である六〇(朝鮮戦争が終わってから十年程度)年代から現在に至るまで生きづらいんだなとつくづく思わされた。儒教文化圏はホント大変そう…。
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