Omizu

サタデー・フィクションのOmizuのレビュー・感想・評価

サタデー・フィクション(2019年製作の映画)
3.8
【第76回ヴェネツィア映画祭 コンペティション部門出品】
『スプリング・フィーバー』ロウ・イエ監督作品。ヴェネツィア映画祭でコンペティション部門に出品された。横光利一『上海』がうっすらベースにはされているようだ。日本からはオダギリジョー、中島歩が出演している。

ずっと日本公開されなかった『シャドウプレイ』と本作が公開されてロウ・イエのファンとしては嬉しい。ただ作品としてどうかは別かな。

前作『シャドウプレイ』は年間ベストに入れるくらい好きだったが、本作はそこまでかな。スパイものという苦手なジャンルということはあれど、白黒の映像やロウ・イエ特有の省略が上手く機能していないような。

真珠湾攻撃直前の上海を描くスパイもの。最近チャン・イーモウも『崖上のスパイ』撮ってたなぁとか思い出す。でも実際観てみるとがっつり抗日映画だったそれとはかなり異なる。

やっぱりロウ・イエの色って唯一無二だよな。スパイものでありつつ、淡々とした官能性もあるというか。あくまで淡々と描きながらしっかり情感も持たせるという手腕は見事。

完成度はめちゃくちゃ高いと思う。撮影も演者も演出も全てレベルが高い。全て狙い通りにいっているかは置いておいて、最近観た映画の中でもプロダクションはレベチで高い。

ただ、白黒という撮影はいいのだが、アクションになったときにすごく観づらい。何がどうなっているのか本当に分からないところがかなりあった。あとシンプルに画面に華がなくなる。まぁ別にロウ・イエの映画に華を求めているわけじゃないからそこはいいんだけど。

あと現実と舞台を混同させるような演出が多用されて、メタフィクショナルな面白いことをしてはいる。ただ流石にちょっと分かりづらい。やり過ぎかなと感じた部分は多かった。

ロウ・イエ大好きだし本作もよかった。でもやっぱりロウ・イエには『シャドウプレイ』路線が似合うと思う。新しいことに挑戦した新鮮な一作であり、ファンであることは変わらないが、求めているものとはちょっと違ったかな。
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