月の道

ペンギン・ハイウェイの月の道のレビュー・感想・評価

ペンギン・ハイウェイ(2018年製作の映画)
3.3
本当に美しいアニメです。
地方の山を切り開いて作った新興住宅地、ああいう町には本当にああいうデザインの歯医者さんあったりします。
木漏れ日、草いきれ、初夏の水色の淡い空、夏の光に霞む山、夜のカフェ
臨場感が素晴らしく、本当にその場に共にいるような心地よさを感じうっとりしました。
映像だけなら宮崎アニメと比べても遜色ないか、凌駕しています。
キャラクターもとても愛らしく、表情や演技も生き生きしてます。

しかしコロリドのアニメはいつもそれだけ。
本当に!映像だけ!です!
今回はきちんとした原作付きということで、地に足のついた物語になることを期待しましたが、
残り30分くらいになったところで、ああ…これなんの説明もなく雰囲気で解決した感じにして終わるやつだ…、と諦めました。

宮崎アニメと圧倒的に違うのは、宮崎アニメの主人公には確固とした目的や行動の動機ややり遂げたいことがあり、その思いを果たすために物語の全てが作られているということです。
惜しみない枚数を費やした原画も、奥行きのある世界観も、美しい背景も、ただの絵が魂を持って疾走するのも、全てはキャラクターが遂げたい思いのためにあって、その情熱をモチベーションとして物語が作られているのです。
父の夢を果たしたいというパズーの思いのために「天空の城」というゴールがあるのです。

コロリドのアニメは逆です。
まずこういう絵が描きたい、こういう雰囲気が描きたい、が先にあり
ペンギンが新興住宅地を走り回るという映像ありき、巨乳のお姉さんという存在ありきなのです。
なぜペンギンなのか、お姉さんは何者なのか、理由は後付けなので、漠然として、辻褄を合わせられず、真に迫るものがありません。
主人公は「なんとなくお姉さんが大変なことになっているのでなんとかしたい」というモヤっとした思いは持っていますが、どうすればお姉さんを救えるのか、そもそもお姉さんにとっての救いとはなんなのか、が全くわからないまま話が進みます。
「パズーにはラピュタにたどり着いて欲しい」と思えますが
「ペンギンハイウェイ」はどっち方向に主人公を応援していいか視聴者にはわからないので、まったく感情移入できないのです。
キャラクターの表情も時に凛々しく時に儚く生き生きと描かれていて、予告で見た時にはきっとこの子達には強い思いがあるのだろうと思えましたが、本編を見るとなぜそんな顔で怒るのか、そこで涙を流すのか、いまいち伝わってきません。
女の子が怒ったら男子にビンタを食らわすもの、とか、ラストで冒険の証のような品を見つけたら目を輝かせるとか、アニメによくあるテンプレートをつなぎ合わせた演出に見えます。
宮崎アニメを始め、過去のアニメのキャラクターの演技をコピーして、涙を流したり、怒ったりしているだけで、キャラクターが語るべきものを持っていない。持っていても抽象的すぎて伝わらないのです。
監督や脚本家の頭の中の夢を見せられたような感じ。ものすごく閉じたセカイ系です。

コロリドの淡く爽やかな映像や、どこかにありそうな理想の風景は本当に大好きなので
コロリドのアニメを見るたび、ものすごい消化不良で残念でたまりません。
語るべきものがないなら、よい原作や脚本と出会って欲しい。
今回は「描きたい映像」のために原作を利用しただけに思えてしまいました。
ああ、もったいない。
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