ストロング

フード・インクのストロングのレビュー・感想・評価

フード・インク(2008年製作の映画)
4.2
 食品を食べてる時にどこから、どんな風に流れてきたのか、考えることはなかったが、「フードインク」を視聴して、業界の思惑は巧妙に消費者から隠されていたことがわかった。例えば、ひと握りの多国籍企業がフードシステムを支配して、抗生物質を使用した鶏を育て通常よりも短期間で成長させていることや、集鶏員に多くの不法就労者を雇っていること、農家を従わせて牛耳りカネを吸い上げていたことなど、スーパーの食品売り場に並んでいる鶏肉や豚肉などから、想像することはこれまでなかった。まさに種子からスーパーまで企業が食品を支配していると言える。この50年間に食生活に生じた変化は過去1万年より大きいが、食料品の売り場には昔のままの農家のイメージが並んでいて、実情は大きく変化していることがわかった。
 スーパーには豊富な商品が並んでいるが、元を辿ると数社と数種類の穀物だけで、コーンを原料にしているほとんどの工業食品は、アイオワ州のコーン畑に行き着くことを知った。コーンは万能性に優れていて、あらゆる食品に調合できたり、家畜の餌としても使える。だが、家畜は草を消化して育つ生き物であるため、コーンの多い飼料を与え続けると大腸菌が耐酸性を持つようになり、より危険な大腸菌に成長してしまうことが研究からもわかっているのだが、コスト削減などの理由から餌として使用し続けられている。
 このような大量生産、大量消費社会の中で、コストを抑え多く利益を出せるのか追求することは、決して悪いことだと否定できないが、そのためなら消費者の健康を考えないで生産を続けていくことが、正しいとも言えない。だが事実を知った上で生活をすることと、知らないままでいることは、全く違うことであると考えられる。例えばスーパーに行ったら、旬のものを買う、有機食品を買う、ラベルを読んで成分を知る、地産商品を買う、農家の直売で買う、たとえ小規模でも家庭菜園を始めるなど、知識があると健康的な食事や体づくりをする上で対策が練れる。
 令和元年度の食料自給率が38% (農水省公表資料より)の日本においては、大量の輸入原料・輸入食品にて食料を賄っている都合上、 外国における食糧生産事情は自らの健康に直結する大問題であり、日本の最大の食料輸入相手国に当たるアメリカからの輸入製品ともなれば、 大変切迫した問題に他ならない。「フードインク」を通して、ひと握りの企業によって循環している農業の実態を受け、農業の在り方が変化し、工業と化していることがわかった。そんなアメリカ産食品、 現在は「フードインク」の公開から10年以上経過したこともあり、事情は様変わりしたところも多々あるだろうが、オーガニック市場やファーマーズ・マーケットの拡大、 異常気象の頻発による生産への打撃、 農業従事者の減少に歯止めがかからないなど、どこの国も大変であり、それでいて、「食」への不信感は相変わらず高く、遺伝子改良作物や巨大企業の寡占的市場形成はあまり変化していないと考えられる。
 だが幸いなことに現代では、インターネットの発展により誰でも手軽に情報収集が可能な社会になったので、完璧を目指すことは難しくても、日々の選択を自らの意思で判断することができることは、明るい材料だと考えられる。
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