Chico

追想のChicoのレビュー・感想・評価

追想(2018年製作の映画)
4.0
ポエムのような美しい映画だった。


映画は1962年、結婚式を挙げた一組のカップル、フローレンスとエドワードの追想から始まる。

イギリスのチェシルビーチを身体を寄せ合い歩く一組のカップル。
打ち寄せる波とブルーのどこまでも続く海、そんな美しい海岸を仲睦まじく散歩する。

その日、滞在中のホテルの一室でディナーをとる二人。テーブルを挟んでディナーを食べながら結婚に至る二人の思い出を語り合う。二人のこころは昔の思い出と、ホテルの一室を行ったり来たりする。しかし今の二人にとって重要なことはただ一つ、これから初夜を迎えるということだ。緊張が二人を包む。期待と不安。正確にはエドワードの期待とフローレンスの不安。
60年代初頭、婚前交渉が解放される前の時代には、初夜が初夜であっても違和感はないのだがそれでもエドワードは交際中ここまでの期間、自身の欲求を押えて今この時を迎えている。対してフローレンスはこの時までなんとかそれが起こらないようにと、自分と向き合うことを先延ばしながらここまで来て、もう後がないという恐怖に焦っている。
二人の心は一つのはずだった。しかしそんな愛を引き裂くものが愛の行為だったのだ。

エドワードはフローレンスの緊張と不安を解きたいがうまくいかない。フローレンスは以前読んだ性についてのマニュアル本を必死に思い出しながらぎこちないエドワードをリードする。

そして予期せぬ事態が起こる。

この残酷な出来事によって二人の気持ちに齟齬が生じる。
そして二人は初夜の日に別々の道をゆくこととなる―。


主人公二人の人生をほぼ半世紀にわたるスパンで、何層もの回想シーンを交えて語られる。フォトジェニックな自然、60年代ファッションと音楽は二人の馴れ初めや結婚に至る穏やかで温かい記憶を鮮やかに彩る。そんな記憶は初夜に起こった事件をより残酷なものにし、二人の再開をより一層切なくさせる。

エドワードとフローレンス。
おしとやかだが野心的なお嬢様は音楽家としての成功と輝かしい未来を頭に描く。そして純朴な田舎の若者は思想にふけり、歴史研究に身を捧げる自分を夢みる。
作品内で流れる二つの音楽、静かで優美で保守的なクラシックと荒らしく攻撃的なロックの対比は住む世界の違う二人を象徴している。
そんな二人の恋はそもそもが叶わぬ夢だったのか。

フローレンスのアジュールブルーのドレスは海の色と呼応し、寄せては返すさざ波は、動揺しそれでも平静でいようと努める彼女の心の震えのよう。
Chico

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